医師の視点で外科手術を見つめ、人体の神秘と人間の恐怖の根源を探るドキュメンタリー映画「人体の構造について」の予告編と著名人からの推薦コメントが披露された。
初監督作「リヴァイアサン」(04)で圧倒的な映像体験を“発明”し、世界的な名声を集めたルーシァン・キャステーヌ=テイラーとベレナ・パラベルのハーバード大学感覚人類学研究所の人類学者監督コンビ。2人が新作のテーマに選んだのは、最も身近ながら神秘のベールに包まれた「人体」だった。
本作は「人体」が最大の関心事となる場所=パリ北部近郊の5つの病院のオペ室を舞台に展開する “21世紀の人体解剖書”。医師視点のカメラや内視鏡の映像を使い、脳や大腸、眼球、男性器など様々な外科手術や帝王切開の模様を医師の視点で見つめる。思わず目をそむけたくなるほどの生々しさと同時に、肉体が持つ生命力や美しさを感じさせてくれる。また、死と隣り合わせの職場での医療従事者たちの心境や、死体安置所でのおくりびと達の仕事ぶりが描かれ、医療とは何か? 肉体と魂とは何か? 人体の神秘と人間の恐怖の根源を探るドキュメンタリーだ。
このほど公開された約100秒の本予告編は、「刺激が強いと感じられる映像が含まれています」という警告文からはじまる。登場するのは現代の病院で行われている様々な外科手術の現場。普段はなかなか目にすることのできないオペの様子は「いったい何をしているのか?」と気になる映像が満載だ。また、本作には医療従事者たちの本音のやりとりも数多く収められており、「集中治療室で働いていると、(毎日死と向き合うから)“今を大事に”と思うの」という看護婦たちの切実な会話から、「週に100人治療し、20人手術している。まるでロボットだ」とこぼす医師の独白も捉えられ、現在の深刻な医師不足の問題も提起する。
推薦コメントは、「サンショウウオの四十九日」で第171回芥川賞を受賞した作家で、現在も消化器内科医として勤務する朝比奈秋氏、漫画家デビュー前に歯科技工士としてのキャリアを持っていたことでも知られている漫画家の伊藤潤二氏、本作の字幕監修を担当した養老孟司氏の下で解剖学の研究に従事していた解剖学者で美術批評家の布施英利氏、内科医でありながら小説家としての顔を持つ南杏子氏から寄せられ、全員が医学に携わってきた人々ならではの視点が光る。
「人体の構造について」は、11月22日からヒューマントラストシネマ渋谷&有楽町ほか全国公開。
<推薦コメント ※あいうえお順/養老孟司氏は一部既報>
■朝比奈秋(作家<『サンショウウオの四十九日』で第171回芥川賞受賞>・医師)
発達した医療ほど、身体のグロテスクさをあらわにする。
■伊藤潤二(漫画家)
人体組織という小宇宙に潜り込んで目撃する手術映像はまるでイリュージョンです。
それに対する外界=病院の厳しい現実に目眩を覚えました。
■布施英利(解剖学者・美術批評家)
パリの病院、最先端技術のカメラが潜入したそこには「人体」があった。
…アンドレアス・ヴェサリウスの『人体の構造について』(1543年)の出版から約500年。
ここに新しい人体の映画が誕生した。
■南杏子(作家・医師)
あまりにもリアルな映像に、医師としての日常がオーバーラップする瞬間が何度もあった。
目が離せず、やがて仕事が積み重なったときのように疲れてくる。
医療者でない人々に耐えられるのか。
そう心配した瞬間、一気に画面が切り替わり、別世界に吸い込まれた。
とてつもない解放感、とてつもない心地よさ。こんな体験は初めてだ。
■養老孟司(東京大学名誉教授)
ふだんは見られない手術時の臓器や内視鏡の画像が見られる。
これは貴重な体験になると思う。
存在するものは存在するとして、視ることに慣れるのが大切だと思う