奥山和由が30年ぶりに劇映画の監督を務め、瀧内公美(「由宇子の天秤」「火口のふたり」)が主演した「奇麗な、悪」が2025年2月21日に公開されることが決定。原作は、芥川賞作家・中村文則氏による小説「火」(河出文庫「銃」収録)。 ポスタービジュアル、メインカット、奥山監督らのコメントも披露されている。
芥川賞作家・中村氏による原作、俳優・瀧内の卓越した演技力――本作は、ふたりの才能の参加を得て、映画界に半世紀近く携わる奥山が常識を覆す演出方法で仕上げた作品だ。この映画、観客は観終わってもしばらくの間、美しい映像や劇中のサブリミナル音に支配される。耳に残る印象的なピエロの口笛。きっと多くの人は映画から解放された後、いつの間にかそのメロディを口ずさんでしまうだろう。女の語る半生は人の道を踏み外した悲惨な話でありながら、どこか心地良さすら感じてしまう。そして、気がつくと自分に何が起こっても大したことではない、いずれ少しは幸せになれるはずという気がしてしまう。それは理屈抜きの映画的マジックだろうか――。
スタッフは「RAMPO 奥山監督版」以来約30年ぶりに監督を務めた奥山のもとに、「鎌倉殿の13人」などの撮影監督・戸田義久、美術の名匠・部谷京子、「ミッドナイトスワン」などの録音・伊藤裕規、「PERFECT DAYS」などの音響効果・大塚智子といった日本映画を代表するスタッフが集結。それに加え、衣装のミハイル ギニス アオヤマ(ギリシャ)をはじめ、編集・陳詩婷(台湾)、ヘアメイク・董氷(中国)と国際色豊かなチームとなっている。
また、精神科医と主人公の関係の象徴の如き大きな絵画が冒頭から最後まで印象的に映り込んでいる。描く画家が絵に収まってしまい、それを逆に見つめる裸婦という逆転の構図。これは「真実」という標題の後藤又兵衛の原画だ。後藤は日本では不遇の画家だったが、それに比して海外では圧倒的に高い評価を得ており、彼の絵の熱心なコレクターとしてハリー・ベラフォンテ、エルビス・プレスリー、フランク・シナトラなど歴史に名を残す錚々たるアーティスト達が名前を連ねている。
全編を彩るピエロの口笛のメロディは、芸術文化功労賞受賞者であり国際口笛大会(IWC)での優勝歴を持つ加藤万里奈が担当。 一流のスタッフ、アーティストによってて生まれた、かつてない実験的な自主映画となっている。
「奇麗な、悪」は、25年2月21日からテアトル新宿ほか全国順次公開。コメントは以下の通り。
【中村文則(原作)】
映画は、小説よりもどこか「前」を向いている印象がある。
瀧内さんによる、奥に芯の見える主人公像もそうだった。
この映画はこのように完成したことで、「火」の主人公を救ったのかもしれない。
あらゆる文化が平均化していく中で、このような作品が日本映画にあることが、嬉しい。
【瀧内公美(主演)】
2022年6月28日、とっても不思議な映画の企画が届きました。
ひとりの女性が延々と喋り続けている。果たしてこれは映画として成立するのか?
突飛な企画過ぎるけど、ひとり芝居の経験がない私は挑戦してみたいと思いました。
そしてこの女性はこれだけ喋り続けているけれど、このひとが“言わないこと”、
“言えないこと”ってなんだろう?を探し続けることとなりました。奥山監督をはじめ、
スタッフの皆さんと大勝負に出たこの作品をどう受け取ってくださるのか楽しみにしています。
【奥山和由(監督)】
20世紀を代表する映画監督、イングマール・ベルイマンは晩年「A SPIRITUAL MATTER」という女優の一人語りの脚本を仕上げ、映画化を熱望した。にも関わらず、あまりにも突飛なコンセプト故に出資者が見つからず実現出来なかった。
自分の才能はかの巨匠の足元にも遥かに及ばないが、最後にそのような映画を作りたいと思ったベルイマンの想いは相似形のものとして痛いほど理解できる。
幸運なことに自分は中村文則の魅惑的言葉と瀧内公美の演技力に恵まれ、実現出来た。さらに撮影監督の戸田義久さん、口笛奏者の加藤万里奈さん始め才能豊かなスタッフ方々が集まってくれた。本当に幸せな映画だと思う。
そして我が映画人生の最後にこのような我儘を許してくれた全ての方々に心底感謝している。