山田尚子監督の「きみの色」が10月29日、第37回東京国際映画祭が開催中のTOHOシネマズシャンテで、アニメーション部門作品として上映された。「映画 聲の形」「平家物語」など、国内外で高い評価を集める山田監督の集大成となる完全オリジナル長編最新作。上映後には、山田監督が登壇し、作品の成り立ちや創作活動における思いを語った。
うれしい色、楽しい色、穏やかな色など、幼い頃から人が「色」として見えるトツ子(鈴川紗由)は、同じ全寮制のミッションスクールに通う美しい色を放つ少女・きみ(髙石あかり)、街の片隅にある古書店で出会った音楽好きの少年・ルイ(木戸大聖)の3人でバンドを組むことに。離島の古い教会を練習場所に、それぞれ悩みを抱える3人は、音楽によって心を通わせ、いつしか友情とほのかな恋のような感情が芽生え始める。
これまでは、将也と硝子(「映画 聲の形」)に代表される“ふたり”の物語を描き続けてきた山田監督だが、本作では3人の主要キャラクターを迎え「確かに難しかった」と述懐。「お互いを見つめる視線や関係性が、どんどん発散していくような感覚があった。正しい動きをしなくなって、それがすごく面白かった」と、新たな挑戦に手応えを示した。
アニメーション部門のプログラミング・アドバイザーで、司会を務める藤津亮太氏からは「アニメーションは感情と感情、感情と状況がぶつかり合う様子を、具体的に物理的な現象として描くことが多いが、この作品はすごく禁欲的、つまり内面の出来事を内面のまま描いている」という指摘が。山田監督は「そこに軸足を置いているわけではないが、とても静かな爆発が心の中で起こっているのは、ご覧になる皆さんにもそれぞれあるんじゃないかと考えました」と、挑戦的な心理描写について意図を語っていた。
アニメーションという表現方法に興味を抱いたきっかけは、チェコの奇才ヤン・シュバンクマイエル監督の作品に出合ったことだといい「たまたま夜中にテレビで『アリス』を見た瞬間、なんて世界が広がっているんだって。その後『悦楽共犯者』を見て、私自身が生きていていいんだって思えた。勝手にシンパシーを感じてしまって」と強い思い入れを示す。
具体的な影響については「直接的に目に見える部分では(影響を挙げるのは)難しい」としながら、「個人的なことを、個人的に表現している。そういったことを許された気がした」といい、「私の場合はもっとたくさんの人の目を意識しているが、自分を鼓舞する勇気になっている」と、クリエイティブ面で精神的な支柱になっていることを明かした。
第37回東京国際映画祭は、11月6日まで開催。