第37回東京国際映画祭のガラ・セレクション部門「Spirit World(原題)」が10月29日に上映され、エリック・クー監督と脚本を担当したクー監督の息子であるエドワード・クーが上映後のQ&Aに応じた。
本作はカトリーヌ・ドヌーブを主演に迎えた日・仏・シンガポールの国際共同合作。共演に竹野内豊、堺正章、風吹ジュンらが名を連ね、今年の釜山国際映画祭のクロージング作品に選ばれた。フランス人歌手クレアは、日本でのツアー中、群馬の居酒屋で突然の死を遂げる。クレアの魂は日本で生き続け、そこで彼女は、生者とともに旅をする彷徨える別の魂(亡霊)に出会う。死と生の隔たりを越え、魂が残った死後の世界で、人間性を発見する旅を描いたスピリチュアルな物語だ。
クー監督は「昨年日本で撮影しました。精神世界の素晴らしい旅路の物語です」と作品のテーマを紹介する。死後の世界の魂として存在する役柄を演じたドヌーブと堺のセリフは、それぞれの母語であるフランス語、日本語で展開されることについて、「死後の世界のキャラクターには言葉のバリアはないという発想です。通訳がなくても会話ができて、心が通じるのです。観客は字幕を読んでくれれば理解できると考えました」と脚本を担当したエドワードが解説する。
物語の主な舞台が、東京や大阪といった日本の大都市ではなく、なぜ群馬だったのか? という質問が寄せられると、クー監督は、斎藤工と松田聖子の共演で高崎で撮影した「家族のレシピ」(2017)と、昨年3月に高崎映画祭に参加した思い出を挙げ、「その際に訪れた高崎の古い映画館(高崎電気館)で映画を撮りたいと思ったのです。今回、その映画館でドヌーブが竹野内さんの肩を叩くシーンがあり、竹野内さんは映画のレジェンドとの共演に感激していたようでした」と振り返る。
そして、堺が演じる、元ミュージシャンのユウゾウ役については「なかなか決まらなったのですが、堺さんは本読みで化学反応が起きました。私はロマンチックなので、死後の世界でも恋愛はできると考えたのです」と明かす。
日本で息を引き取り、魂となったクレアは、ユウゾウのほか、甲冑姿の武士や、自殺を試みた青年などに出会う。エドワードは「脚本段階ではもっといろんな幽霊に会う設定でした。死後の世界にはさまよっているものがありますが、(生きる者と死んだ者の)中間地点のことは明らかにせず、侍のように成仏できない存在も描きました。ユウゾウは彼女をそういった世界を案内するのです」とファンタジックな設定について述べ、「仏教の四十九日の魂がさまよう時間に希望を与える存在をクレアが象徴しています」とクー監督が補足した。
本作は群馬を離れた海辺の街での場面もあり、サーフボードが物語の重要な小道具として登場する。脚本を書いたエドワードは、「サーフミュージックからのインスピレーションです。日本の文化と他の文化をつなげるため、クレアと日本、音楽を人をつなげる役割です。そして僕らがビーチボーイズが好きで、日本にもサーフミュージックの文化があります。サーフボードで世界の海をつなぐという意図もあります」と説明した。
また、鈴木慶一や細野晴臣といった、日本の音楽界のレジェンドも出演する。「トリビュートとして細野さん、鈴木さんに出演していただきました。私は日本の音楽が大好きで、サーフミュージックでは加山雄三さんのファンです。そして堺さんのスパイダースは、僕にとってはビートルズよりも大きい存在かもしれません。(堺の出演した)『西遊記』はイギリスでも放映されていました。そして、カトリーヌも歌うことに乗り気でした」とクー監督。歌手を演じたドヌーブは、本作のために作られた古き時代のシャンソン風の楽曲で、その歌声を惜しみなく披露している。
そして最後に、「この作品の構想時はコロナ禍のステイホームで、私たちはたくさん映画を観たり音楽を聴いて過ごしました。ですからこの映画は、アート、音楽、文化へのオマージュ。タワーレコードの“NO MUSIC, NO LIFE.”のようなものを体現しました。私たちに大きな影響を与えたアーティストたちが出演を快諾してくれたことに感激しています」と、エドワードが結んだ。本作は今年12月にフランスで公開される。
第37回東京国際映画祭は、11月6日まで開催。