国民的に人気シリーズ「踊る大捜査線」の最新2部作の後編「室井慎次 生き続ける者」の一度きりのマスコミ試写会&緊急特別捜査会議が10月30日、都内で行われた。亀山千広プロデューサー、フジテレビジョンのドラマ・映画制作局長の臼井裕詞が、「踊る」プロジェクトが再始動した経緯や、柳葉敏郎、本広克行監督のオファーにまつわる裏話を明かした。
亀山プロデューサーは、「実は一昨年前に、君塚さんから連絡がきまして。とにかく室井慎次が書きたいと。もう一度、本広監督と3人で仕事ができないかというメールでした。その時に室井を書きたい理由として一番大きかったのは、柳葉さんを室井から開放してあげたいという思いでした。柳葉さんは、室井を演じて以降、これまで27年間、スーツやスリーピース、反社の役などの出演をお断りしていたと。気のいいおじさんを演じるにあたり、室井を払拭したいという思いで受けていると聞いていまして。そろそろ柳葉さんを開放したいと思い、2人で相談しはじめました」と経緯を明かす。
亀山氏によると「君塚さんはBSドラマ4本くらいで考えていたみたいですが、フジテレビにおすがりしました」と言うと、臼井局長は「ずっと劇場でお客さんを楽しませてきたエンタテインメントの『踊る』が、劇場以外でやることなんて考えられないなと思いまして。だから僕は素直に、待ち焦がれてるお客さんに届けましょうよと、亀山さんに懇願しました」と当時を振り返る。
柳葉は当初、オファーを断ったと言うが、亀山氏によると「中身の話をする前に、臼井さん経由でお願いしたら、柳葉さんから、今の自分が室井慎次の人生を背負いきれるんだろうかと言われて。いまの自分には荷が重いということをおっしゃられました」と、役への思い入れが強いからこそ、首を縦に振ってもらえなかったそうだ。
その後、亀山氏が直談判したそうで「柳葉さんとお会いして、室井に決着をつけましょうという言い方をさせてもらいました。それで多少、柳葉さんの心が動いてくれて、脚本を作ってから判断しましょうという流れになりました」と語る。ちなみに君塚のメールを見せたら、柳葉は大いに心を打たれたそうだ。
当初は全く過去の事件などが絡んでいない、引退した室井の渋い人間ドラマとして展開する予定だったと亀山は言うが、その後、「踊る」らしいエンタテインメントの要素を入れていく流れになった。
本広監督も、「踊る」シリーズに愛着が深いからこそ、大いにプレッシャーを感じていたそうで、亀山氏によると「なぜ僕がやるんだと、なんだか逃げ腰になって。考えすぎて熱中症になって、入院してしまいました。そうしたら君塚さんが『本広監督がのらないのは、ヘリコプターが飛んでいないからだ』と言われまして」と語る。
臼井局長も「大事な役だから荷が重かったんです。でも台本が彼の心を打ちました。それくらい室井という役を大事にしてきたんです。本広さんにいたっては、その重責を担わないといけないってことで、どういうふうに室井さんの思いを届ければいんだと悩んでいました」と補足する。
その後、様々な要素が加わり、小泉今日子の続投も決定した。今回、福本莉子演じる日向杏は、小泉演じる日向真奈美のDNAを引き継いだ娘役だ。亀山氏によると「『踊る』の世界観における日向真奈美は、『スター・ウォーズ』におけるシスだと思っています。小泉さんには、直接お会いしてお願いしたら、『わかった。またやるのね、日向真奈美を。何日かかるの?』と聞かれたので、『1日でけっこうです』と答えました」とこちらはあっさりと快諾してもらったそうだ。
亀山氏は、「踊る」シリーズについては特別な思い入れがあるそうで「人生を変えられました。これが当たったがために映画が作れなくなりました。管理職になったし。『踊る』は、あまりにもでかい船でした。それで4年でクビになり、BSで新たなメディアをやることに」とユーモアを交えつつ「節目節目で僕自身も変えられた」としみじみと語った。
その後、本作のメイキングを収めたスーパーティザー映像が披露された。そこには雪の秋田で撮影する大勢のキャストやスタッフ陣の姿や、柳葉による熱いコメント映像などが収録されていた。
最後に臼井局長は「すごい真面目に作ってます。ほとばしる情熱と魂がこもった作品ですし、こういう無骨で正直で真っ直ぐな映画があっていいんじゃないかと。正義を貫く話です。本作をもって、一応、最後の室井となるので、ぜひ劇場で見届けてほしいです」と打ち明けた。
亀山氏も「映像の最後に、『室井さん、ありがとう』とでかでかと書かせてもらいました。柳葉さんが、よく『感謝です』とおっしゃってるのを耳にしていますが、僕らも感謝しています。その感謝を映像にしたのが今回の2本。派手ではないけど、温かくなるもの、胸にくるものがあれば、観客に伝わったのかなと思います」と熱いメッセージを送り、会見を締めくくった。