第37回東京国際映画祭のアニメーション部門で10月30日、久野遥子と山下敦弘が監督を務めた日仏合作アニメ「化け猫あんずちゃん」が上映され、久野監督と山下監督、日仏共同製作担当の高橋晶子氏が東京・TOHOシネマズシャンテでのトークショーに出席した。
いましろたかしの同名コミックを映画化した本作は、子猫の時に拾われ、10年たっても20年たっても死なず、気が付けば30年以上生き、人の言葉も話すようになっていた化け猫あんずの物語がつづられる。
本作は実写映像を元にアニメーション化する手法「ロトスコープ」で製作され、森山未來が主人公あんずちゃんの声と動きを演じた。山下監督を中心とする実写班が撮影した映像と音声をもとに、久野監督を中心とするスタッフ陣が動きや表情を抽出するという流れで、実写映像をアニメへと描き起こしていった。
山下監督は、ロトスコープでの製作を「純粋に楽しかったですね」といい、「すごく時間はかかりましたが、自分が監督した映画ではありますが、最終的にアニメになるので、自分と作品の距離感がいつもより離れている感じが楽しかったなと思います。キャストの演出は僕が担当したのですが、そこにさらに久野さんの演出が加わるので面白かった」と振り返る。
一方の久野監督は、「あんずちゃんのフォルムは、森山さんのシュっとしたフォルムとはまったく違うので、あんずちゃんが縦にのびてしまったりすることがよくありました(笑)」と製作時の苦労を吐露。「でも実際の映画のような現場で(実写映像を)撮っていたので、役者さんたちの掛け合いの熱量が面白かった。いわゆる田舎の風景みたいな場所で撮っているので、足に虫がきたりする。『これをそのままアニメーションにしよう』とかっていうのが面白かったですね」とも明かしていた。
製作時には、実写とアニメそれぞれのキャラクターを並べた表情集も作ったという。久野監督はその意図を「実写の人の笑顔は意外と目があいていたりするけど、(アニメ化する際には)漫画的にニッコリさせたいというような幅があり、そこでアニメーターが悩むと思ったので、『このくらい大胆にいってください』という意味で表を作りました」と解説した。
この日のトークショーには、山下監督、久野監督、高橋氏のほかに“もう1匹の登壇者”がおり、イベント終了間際に注目を集めることに。同部門のプログラミング・アドバイザーの藤津亮太氏が、山下監督がイベント中にずっと抱えていたあんずちゃんのぬいぐるみに視線を移し「さまざまな映画祭に出てきましたが、何体かあるのでしょうか?」と聞くと、山下監督は「この1体だけです」と告白。これに対し藤津氏が「世界中を旅しているんですね」と返すと、両監督は「そうですね、相当行ってます」(山下監督)、「いろんなところに行ってます」(久野監督)と笑みをこぼし、場内は和やかな空気に包まれていた。
第37回東京国際映画祭は、11月6日まで開催。