第37回東京国際映画祭のアニメーション部門で10月31日、「メモワール・オブ・ア・スネイル(原題)」がジャパンプレミア上映され、会場の東京・角川シネマ有楽町で合田経郎監督がプログラミング・アドバイザーの藤津亮太氏とトークを行った。
同作は、本年度のアヌシー国際アニメーション映画祭クリスタル賞(最高賞)を受賞したオーストラリアのクレイアニメーション(監督:アダム・エリオット)。カタツムリが心の拠りどころの孤独な少女グレースが、自らの半生を回想しながら希望を見いだしていく。
NHKのキャラクター「どーもくん」や「こまねこ」「リラックマとカオルさん」などで知られるストップモーションのスタジオ・ドワーフの代表を務める合田監督は、「メモワール・オブ・ア・スネイル(原題)」と同じストップモーション作品の監督という縁で登壇し、「ストップモーション作品にこんなにお客さんが入ってくれてうれしいです」と挨拶。今作の感想を藤津氏から訊ねられると、「よかったです。よかったですよね?」と観客に同意を求めながら、エリオット監督の過去作品と比べて「より映画的になっていると思った」と語る。
合田監督は、主人公グレースの可愛らしさにも触れながら、グレースが作中でストップモーションをつくりだしたところで、「『お、やりだした』と思った」とうれしそうに話す。藤津氏が、合田監督の「こまねこ はじめのいっぽ」でも、主人公がコマ撮り映画をつくるシーンがある共通点を指摘しながら、ストップモーション作品のなかでストップモーション作品をつくるシーンを制作するのは大変なのかと聞くと、合田監督は「ミニチュアの中にミニチュアをつくることになるから大変」「でも、やっていて面白いことではある」と答えながら、今作でも楽しみながらつくっていたのではないかと同業者ならではの視点で語った。
「メモワール・オブ・ア・スネイル(原題)」と前作「メアリー&マックス」(2011)には共通するテーマがあり、合田監督は「監督には本当にやりたいことがある」とその作風を分析しながら、エリオット監督の作品の個性を、「リスペクトをこめて」と前置きしつつ、「子どもが描いた絵の無邪気さのようなアニメーション」が魅力だと語る。そうした個性が、作中で描かれる喜劇や悲劇をやわらげているのだという。
合田監督は、エリオット監督作品のアニメーションの特徴を「これもリスペクトをこめてです」と強調しながら、「実はあまり動かさない」ところにあるとも指摘する。第76回アカデミー賞で短編アニメ映画賞を受賞したエリオット監督の短編「ハービー・クランペット」(2003)を見て、当時ストップアニメーションをいかに動かすかを考えていた合田監督は、良い意味で衝撃をうけたのだそうだ。その後の初長編「メアリー&マックス」、今作と、作品を経るごとにより動くようになったのは、「監督のにやりたいことが増えている」あらわれで、合田監督自身が最初に「より映画的」だと感じた理由なのかもしれないと、藤津氏とのQ&Aを通して振り返っていた。
現在公開中の合田監督の最新作「こまねこのかいがいりょこう」は、5分の短編をきっかけに20年以上つくり続けた「こまねこ」の選りすぐり3作と11年ぶりの新作を集めた合計50分の作品。最後に藤津氏からうながされた合田監督は、自身の作品を「ぜひ見てください」とひかえめにPRしながら、「メモワール・オブ・ア・スネイル(原題)」を、「とても素晴らしい作品なので、日本公開を望んでいます。そのときは、ここにいるみんなで宣伝を頑張りましょう」と呼びかけた。
第37回東京国際映画祭は11月6日まで開催。