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観客の誰もが幸福な気持ちになれるセリフなし映画「ゴンドラ」ファイト・ヘルマー監督インタビュー

映画.com 2024年11月2日 9時0分

 山の谷間を行き来する2台のゴンドラで働く2人の女性が織りなす物語をセリフなしで描いたドイツ・ジョージア合作映画「ゴンドラ」が公開された。監督・脚本を手がけたドイツのファイト・ヘルマーのオンラインインタビューが公開された。

 コーカサス山脈の西に位置するジョージアの小さな村で、古いゴンドラの乗務員として働き始めたイヴァと、もう1台のゴンドラの乗務員を務めるニノ。威張り屋の駅長には腹が立つことばかりだが、2人も負けてはいない。すれ違うゴンドラでイヴァとニノが交わし合う奇想天外なやりとりは、いつしか地上の住民たちも巻き込んでいく。

 「ジョージアで最も長い距離をつなぐゴンドラ」として知られる、ジョージア南部の小さな村フロに実在するゴンドラを用い、セリフのない映画だからこそ、言葉の違いを超えて誰もが楽しめ、見た後に観客の誰もが幸福な気持ちになれる良作だ。ドイツ出身で“我が道を行く”映画製作を続けるヘルマー監督に、セリフなし映画を作る理由、そしてハッピーエンドにこだわる理由を聞いた。

 この映画を作るきっかけは、「考え始めたのは2021年。コロナ禍で映画が撮れず、一部には撮影できる国もありましたが、大規模な撮影は不可能だし、先のこともわからない。こんな状況でも作れる映画はないものかと、毎日考えを巡らせてました。そんなときに、前作の「ブラ!ブラ!ブラ!」の共同プロデューサーがジョージア(旧グルジア)のロープウェイの写真を送ってきてくれたのです。それが素晴らしく魅力的なロープウェイで、ここで映画を撮ろうと思い立ったんです」。

 ロープウェイはジョージアの南部フロ村に実在し、村人たちが今も利用しているもの。ロープウェイの箱の部分が“ゴンドラ”だ。「ソビエト時代のとても古いもので、途中に支柱がないためゆらゆらと揺れるんです。通常、ロープウェイはスキー場であるとか、観光目的のものがほとんどですが、このロープウェイの独特なところは、バスのようなもので、通勤や通学、買い物に使ったりするんですよ。私はいつも場所、特別な場に惹かれて映画を撮り始めます。デビュー作の「ツバル」ではそれが古いプールで、ブルガリアでぴったりなプールを見つけて撮ったんですが、今回はロープウェイでした」と監督。

 この映画をセリフなしにした理由は、「『ゴンドラ』はまさにセリフなし映画にピッタリでした。2台のゴンドラはすれ違うだけで、そもそも2人の乗務員は面と向かって話ができない。だから身振りや目線で、言葉のないコミュニケーションを取らなければならない。セリフがなくても語れる物語を見つけ、脚本を書くことは、とても難しいのですが、ロープウェイがひらめきをくれたんです」。

 “サイレント映画のようだ”という海外評について聞いてみると「私は“サイレント映画”だなんて言われたくはありません。そう言われるととても悲しくなります。日本は<セリフなし映画>と正しく言ってくれて感謝しています」と告白する。

 「私にとって音はとても重要。セリフがないことは、映像の邪魔をする字幕がないだけでなく、音のトラックをたくさん使えるのですよ。この映画の音は、撮影時に同録で撮ったものではなく、ポストプロダクションで工夫を重ねクリエイティブに作り出した音なのですが、60ものトラックを使いました。音をミキシングする作業は、言ってみればオーケストラの指揮のようなものですね」。

 映画には女性2人の乗務員のちいさな恋も描かれる。「実は、最初は、男女のゴンドラ乗務員を主人公にしたラブストーリーでした。ただ、オーディションの結果、印象に残ったのが2人の女優だったので、2人の女性の物語に変えたのです。女性同士になったからといって、ラブストーリーをやめるのですか。私は、そんなことは必要ないと思いました。性別なんて関係ない。男女だろうが、女性・女性だろうが、男性・男性だろうが、恋に違いはありませんからね」。

 監督の自由な表現があるからこそ、どの国の観客も、映画を見た後にとても幸福な気持ちになるようだ。これはある意味「ハッピーエンド」。監督は「ハッピーエンド」が好きなのだろうか?

 「も・ち・ろ・ん!!私はこの映画に限らず、これまでの映画でも世界各国の映画祭に行きましたが、映画祭に行くと、大体8割くらいは悲劇だったり、解決できない社会問題だったり、重い気分になる映画が多いですよね。そういう映画を批判しませんし、そういう映画はとても重要だと思いますが、一方で、人生には少ないながらも素晴らしい瞬間があるのです。そんなに多くはないかもしれなくても、幸福な瞬間はあるのです」

 「芸術とは、例え少なくてもそんな幸福な瞬間を見せることも役目だと思っています。それを伝えるために、私の映画は、ある種のハッピーエンドでありたい。今は大変な時代ですが、映画がユートピアであってもいいと思いますし、人を導いたり希望を与えたりする星のような存在であって良いのだと思います。生きる意味を信じられるような何かを観客に与えられるものでありたいと思っています」

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