第37回東京国際映画祭の「Nippon Cinema Now」部門に出品された「港に灯がともる」が11月2日、東京・TOHOシネマズ日比谷でワールドプレミアを迎えた。上映後のQ&Aに、安達もじり監督と共同脚本の川島天見が登壇した。
本作で映画初主演を務めた富田望生は、阪神・淡路大震災の翌月に神戸に生まれた、在日韓国人3世の女性・灯を演じた。自身の出自と親から聞かされる震災の記憶の板挟みになり、双極性障害を発症した灯が、コロナ禍を経て回復を目指すなかで希望を見いだしていく姿を描く。神戸で暮らす人々への膨大な取材を基にした、オリジナルの“アフター震災ストーリー”を紡いだ。
20年以上にわたり、NHKの演出家として連続テレビ小説「カーネーション」「カムカムエヴリバディ」などを手がけてきた安達監督。最初に観客から、「父と娘の震災を経験しているか否かという違いで生まれる相容れなさを描いていますが、このテーマを選ばれた理由を教えてください」という質問が寄せられた。
安達監督は、「震災から30年という月日が経って、震災を経験していない世代の人が、神戸の町にもたくさん増えていて。取材していくなかで、経験しているか否かで、考え方や感じ方が全然違うということを見聞きしました。震災のことを伝えていかなければという人たちと、それが重荷になっている人たちと、それぞれのお話を聞きました。まさに親から子へ何を伝えるか、子は何を受け取るのかということは、震災から30年というタイミングで考えるべきテーマかなと思い、大きな軸に据えました」と語る。
共同脚本を手がけた川島は、「物語の骨格を作っていく段階から、震災などいろんなテーマを織り込んだつもりなのですが、重要だったのは、人と人が分かり合うということがすごく難しいということ。人と人が分かり合うことの歯がゆさや難しさは、私たちが生きていくなかですごく大事なテーマだと思ったので、そこを最初の段階から描きたいと思っていました」と、意図を明かした。
富田は、撮影開始の少し前から神戸に住み、町の空気を感じ、さまざまな人に会い、役づくりを進めたという。安達監督は、「いざ撮影が始まると、『ひとつずつ、この場で感じることを撮っていきましょう』と、富田さんに伝えました。一緒になって感じながら、ひとつひとつ経験することを撮っていったという感覚でした」と振り返る。
続いて、観客からは「印象的なシーンが多かったのですが、尺などの問題で、カットしたり、短くしたりシーンなどはありましたか」と質問が投げかけられた。安達監督は、「台本上はもう少し、いろんなシーンがありました。どういう形に仕上げていくか悩んで、何度も編集をやり直しました。そのなかで気付いたのは、灯が呼吸、息ができるようになっていく物語なのかなと。撮っているときは意識していなかったんですが、編集の試行錯誤のなかで気付いて、最終的には『息をすること』が1番伝わるのはどういう形なんだろうという観点で、磨いていきました。尺のことだけではなく、内容として何が1番、灯が生きた時間が伝わるだろうと考えて、このような形になりました」
「港に灯がともる」は、2025年1月17日に公開。第37回東京国際映画祭は11月6日まで、日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開催される。