第37回東京国際映画祭のアニメーション部門で11月3日、韓国の劇場アニメ「ギル」がジャパンプレミア上映され、会場の東京・角川シネマ有楽町でアン・ジェフン監督がプログラミング・アドバイザーの藤津亮太氏がトークを行った。
同作は、小説家ク・ビョンモ氏の同名小説が原作。エラをもつ青年に助けられた女性は、青年の正体を追うなかで彼の奇特な人生を知ることになる。
アン監督は、「映画を見てもらうということは、その人の人生を連れてきてくれるようなものだと聞いたことがあります。皆さんの人生をもってこの映画を見にきてくださって本当にありがとうございます」と挨拶。ク・ビョンモ氏の小説をアニメ化したのはスタッフの勧めによるもので、ちょうどその頃、「ひとつの仕事をずっと長く続けてきて心や精神にちょっと傷を負っているなと思っていた時期」で「この仕事は辞めたほうがいいかな」と思っていたアン監督は、小説を読んで、人がもっている傷はエラ(※タイトルの「ギル」は韓国語で魚のエラの意味)なのではないかと考え、観客にも「これまでの人生で負ってきた傷は、傷ではなくてエラだったのだ」と気づいてほしいという思いでアニメ化したのだそうだ。
本作はアニメ化にあたり、舞台が韓国からフランスとイタリアに変更されている。その意図を藤津氏から訊ねられたアン監督は、「リアルな描写の原作小説をアニメーション化するとき、ファンタジー的な要素があったほうが魅力的だと思った」「時代や場所は絵で表現し、観客にはキャラクターやキャラクターが抱えている希望に集中して見てほしかった」と答えた。
本作に容姿が端正な男性キャラクターが登場することについてアン監督は、「私が描いている絵にはこんなに格好よくてイケメンな人たちはあまり出てきません。絵を描くスタッフのあいだで楽しんで描きたいという声があがり、イケメンを描くことになりました」と制作事情を話す。スタッフの97%が女性で、男性キャラクターは韓国の有名アイドルグループのメンバーや俳優をイメージして描かれたことも明かされた。
トークでは宮﨑駿監督の名前も挙がった。初期から最新の作品まで紙と鉛筆を使い、制作スタイルを変えずにつくり続けている宮﨑監督を「うらやましい」と語るアン監督は、時代やスタッフの変化にあわせた変化をよぎなくされているという。前作「Green Days~大切な日の夢~」はすべてアナログの手描きだったが、本作ではアン監督の仕事以外はすべてデジタルになったそうで、「おそらく次の作品は私もデジタルを使うことになりそうで悲しいです」と話していた。
第37回東京国際映画祭は11月6日まで開催。