第37回東京国際映画祭のコンペティション部門に選出されている「敵」が11月4日、東京・TOHOシネマズ日比谷でワールドプレミア上映された。原作は筒井康隆の同名小説。穏やかな生活を送っていた独居老人の主人公の前に、ある日「敵」が現れる物語を、モノクロの映像で描いた。
上映後には、メガホンをとった吉田大八監督(「桐島、部活やめるってよ」「騙し絵の牙」)、主演を務めた長塚京三が登壇し、観客とのティーチインに応じた。主人公の元大学教授・渡辺儀助を演じた長塚にとっては、12年ぶりの映画主演。冒頭、「余計なことかもしれませんが、僕が俳優になってから今年で50年目になるそうです」と挨拶し、「晴れがましい場に招待していただき、これもお祝いのひとつにさせていただきます」と感謝を述べると、会場は大きな拍手に包まれた。
出演オファーについては「監督が自ら脚本を携えてきてくださり、もちろん即答でお受けしました。何だか、私に当て込んだようなお話で」と振り返る。この言葉に、脚本も手がけた吉田監督は「どなたにお願いするか考えると、やはり長塚さんが思い浮かび、動き出したら、止まらなくなってしまった」といい、長塚の著書に触れたことで「儀助がここにいるという確信を得た。当て込んだよう、と言われれば、まさにその通り」だと語った。
劇中には、教え子役の瀧内公美、亡くなった妻を演じる黒沢あすか、バーで出会った大学生役の河合優実らに翻ろうされるシーンも。長塚は3人の女優たちを「いずれ菖蒲か杜若」と評し、「今をときめく、ウルトラ妖艶なピカピカの女優さんを短い間ですけど、ひとり占めできて幸せなことでした」と思わず照れ笑い。「誰にお礼を言ったらいいのかな、ありがとうございます」と笑いを誘った。
吉田監督は、モノクロ映像を選んだ経緯について「決めたのは、撮影が始める1カ月前。結果としてモノクロは没入感がすごくて、後半の展開には効果的だった」と説明。長塚は「撮影が始まってから知ったので、驚きでした(笑)。モノクロだからといって、演技は何も変わらない」と振り返った。
第37回東京国際映画祭は、11月6日まで開催。「敵」は2025年1月17日、東京・テアトル新宿ほか全国で公開される。