11月6日に閉幕となった第37回東京国際映画祭のクロージングセレモニー終了後、東京ミッドタウン日比谷のLEXUS MEETS...で各部門の受賞者が会見した。
今年の東京国際映画祭の東京グランプリ/東京都知事賞は、吉田大八監督、長塚京三主演の日本映画「敵」が受賞。同作は、グランプリのほかに最優秀監督賞(吉田大八)、最優秀男優賞(長塚京三)も獲得しており、計3部門を受賞している。
吉田監督はグランプリ受賞にあたり、「ここ何年かでつくっているものよりも規模が小さかったし、プロデューサーからは、とにかくやりたいことをやってほしいという力強い言葉をいただいた。ですから自分の中では我慢したとか、苦労したという感じがあまりなくて。もちろんつくっている間は苦労もありましたが、それも含めてものすごく楽しい映画づくりの現場だった。それがこういう華々しいことになって。映画づくりってこういうことがあるから楽しいんだなと改めて思いました」としみじみ話す。
一方の長塚も「こういう事態になるとは想像もつきませんでした」と驚きを隠せない様子で、「ずっと出ずっぱりみたいな感じだったので、本当に撮るので精いっぱい。ロケセットとしてお借りしていたお家も、僕が住んでいるところから遠かったんです。だから朝早くに現場に行って。家に帰るのも遅くなる。そういう生活でした。だから先の事など考えられなくて。これは本当に妻のサポートのおかげ。食べるものを食べさせてもらって、寝る時間を確保してもらったということですね。大変な肉体労働を終えたみたいで、むしろさわやかなくらい。だから映画祭に呼ばれて、賞までいただくとは考えてもいませんでした」と続けた。
パリ大学ソルボンヌに在学中、フランス映画「パリの中国人」で俳優デビューという経歴を持つ長塚。本作における、かつて大学でフランス文学を教えていた元教授という役柄に共通項を感じさせる、という報道陣からの指摘に「僕はひょんなことから俳優になりまして。普通の学生でフラフラしていた時に映画をやってみないかと誘われて、フラフラとこの世界に入ってしまったんです。フランスの映画でちょこっとやらせてもらったから、ひとつの経験としてこれでいいやと。違う職業に就くつもりでいたんですが、日本に帰ってから(芝居熱が)再燃して。こういう役があるからやってみないかとオファーをいただいて、やってみたのがキャリアの始まりなので、正確にいつから僕のキャリアがはじまったのか、というのは定義しにくいんです」と明かす。
さらに「学生時代にフランス映画に出ていたということを、僕の宣伝用の売り文句として掲げないといけなかったみたいで。それが50年たってもつきまとって。フランスの教授とか、フランスに住んでいた人とか、(役柄に)フランスとの関わりが切れなくなってしまった。困ったことだと思っていますが、もうあきらめています」と付け加えると、吉田監督も「フランス語がお出来になることと、長塚さんにお願いするというのは、実はあまり関係なくて。ひと言くらいのセリフのためにオファーするというのはありえないことですから。でも映画にとっては良い偶然をいただいたと思っております」と続けた。
2014年に開催された第27回東京国際映画祭では、宮沢りえが「紙の月」で最優秀女優賞を獲得。今回は長塚が最優秀男優賞を獲得することとなり、「両方とも俳優の賞というのは、ものすごくうれしいこと」と吉田監督。「僕は映画を何で観に行くかといえば、俳優で観に行く。僕の映画も俳優を観に来てほしいんです。それは映画を作り始めてからも変わらないので。俳優賞をいただけるというのは、自分の思いが達成したという意味合いが強い。僕も監督賞をいただきましたけど、正直、自信がなくて。ただ作品賞もいただいたんで、これは胸を張って、この映画にかかわったみんなで喜べるのかなと。東京はいいところだな」とご機嫌な様子で語った。
その後、最優秀芸術貢献賞を獲得した「わが友アンドレ」のドン・ズージェン監督とリウ・ハオラン、そして観客賞を獲得した「小さな私」のヤン・リーナー監督とプロデューサーのイン・ルーが出席。
脳性麻痺を患う青年の成長物語を描いた「小さな私」が観客賞を獲得したことに、ヤン監督も「われわれはこの映画をつくる前に詳細なリサーチを行いました。いろいろな国で脳性麻痺を患っている方も多いですが、皆さん、毎日の暮らしの中でいろんな困難に直面して、大変困っていらっしゃいるわけです。そうするとわれわれは彼らをどの角度から見るべきなのか。たとえば彼らの就職に関して、日常の暮らしに関して。彼らが下したいろいろな選択についてですが、結局は彼らもわれわれと同じ普通の人間なわけですから、その角度で描いたというわけです」と説明する。映画祭期間中に、観客からはいろいろな反響があったとのことで、「心が和んで励まされたとか、役者が本当に見事に演じきっているので共感できたとか、たくさんの若い方からフィードバックをいただきました」と満足げな表情。さらに「この物語はけっして中国だけではない普遍性がある映画だと思います。もし正式に配給できるなら、より多くの方に観てもらいたいなと思いました」と日本公開に期待を寄せるひと幕もあった。
そして最優秀芸術貢献賞を獲得した「わが友アンドレ」のドン・ズージェン監督は「この映画を制作している段階では、まさか東京国際映画祭に参加するなんて想像もしてなかった。とにかく自分がやりたいこと、自分の経験したことを、映画を通して皆さんに共有していただきたかっただけなんです。今回、東京にやって来て、このような賞を獲得することができて、今後の配給・宣伝に対して前向きな影響があるのではないかと思います。わたしが9年前に日本に来た時は新人の役者としてきたんですが、今回は新人監督として映画をお見せすることができて。喜んでおります」と感激のコメントを寄せた。