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アカデミー賞に挑む、カンヌ発の2大異色作【ハリウッドコラムvol.359】

映画.com 2024年12月15日 10時0分

 ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリストの小西未来氏が、ハリウッドの最新情報をお届けします。

 2024年のアカデミー賞レースは興味深い展開を見せている。とりわけ注目すべきは、カンヌ国際映画祭で高い評価を受けた2作品の躍進だ。最高賞のパルムドールを受賞した「ANORA アノーラ」(ショーン・ベイカー監督)と、4人の女優が揃って女優賞を受賞した「エミリア・ペレス」(ジャック・オーディアール監督)である。

 近年、カンヌ国際映画祭とアカデミー賞の親和性は着実に高まっている。2019年、ポン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」がパルムドールとアカデミー賞作品賞のダブル受賞という快挙を達成した。これは「失われた週末」「マーティ」に続いて史上3度目の快挙である。さらに2022年「逆転のトライアングル」、2023年「落下の解剖学」がそれぞれアカデミー賞作品賞にノミネートされるなど、この傾向は続いている。

 その背景には、映画界における重要な変化がある。動画配信サービスの普及により、アカデミー会員の間で外国映画への心理的障壁が低くなった。一方でカンヌ映画祭も、芸術性と商業性のバランスを重視する姿勢を強めている。2024年の審査委員長に「バービー」のグレタ・ガーウィグを迎えたことは、その方向性を象徴している。

 前置きが長くなったが、カンヌ発のアカデミー賞有力候補の2作品を紹介したい。

 「ANORA アノーラ」は、「タンジェリン」「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」などアメリカ社会の辺境に生きる人々を描いてきたショーン・ベイカー監督の最新作だ。主人公のアニーことアノーラ(マイキー・マディソン)は、ストリップダンサーとして働く中でロシアの御曹司イヴァンと出会う。「プリティ・ウーマン」のような展開を予感させるが、この物語は安直なシンデレラストーリーには向かわない。階級意識や偏見に立ち向かうアニーの姿を通じて、現代社会の深い断層を浮き彫りにしていく。

 コメディ、サスペンス、人間ドラマが絶妙なバランスで織り込まれ、したたかさと純粋さを併せ持つアニーを体現したマディソンの演技は圧巻だ。ベイカー監督作品としては最もエンタメ性が高く、それはひとえに主演マディソンの魅力によるところが大きい。彼女の主演女優賞ノミネートは十分にありえるだろう。

 「エミリア・ペレス」は、フランスの巨匠ジャック・オーディアール監督によるクライムミュージカルコメディ映画である。果たしてそんなジャンルがあるのか知らないが、これまでにないジャンルの融合を実現した意欲作だ。メキシコシティの弁護士リタ(ゾーイ・サルダナ)は、麻薬組織のボス・マニタス(カルラ・ソフィア・ガスコン)から、意外な依頼を受ける。通常なら違法行為への協力を求められるところだが、マニタスが望んだのは性別適合手術を受けるための法的支援だった。マニタスは「女性になりたい」と告白し、その過程で生じる複雑な問題の解決をリタに託すのだ。

 リタは見事にその仕事をこなし、マニタスはエミリア・ペレスという女性として新たな人生を歩み始める。しかし、これは物語の3分の1に過ぎない。その後も予測不能な展開が待ち受けており、それらがミュージカルという表現手法によって鮮やかに描き出されていく。まるで新しい料理のように、思いもよらない素材の組み合わせなのに、絶妙な味わいを生み出しているのだ。

 両作品は、それぞれの方法で型破りな挑戦をしながら、確かな手応えのある作品に仕上がっている。カンヌ国際映画祭とアカデミー賞の価値観が確実に接近していることの証といえるかもしれない。

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