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尾上右近&松田元太“兄弟”が明かす、伝統を受け継ぐ者の極意【「ライオン・キング ムファサ」インタビュー】

映画.com 2024年12月16日 12時0分

 「ライオン・キング」のはじまりの物語として、息子シンバを命がけで守ったムファサ王と、ムファサの命を奪った“ヴィラン”スカーの若き日を描くディズニーの超実写版「ライオン・キング ムファサ」(12月20日公開)。ディズニー史上最も温かく、切ない“兄弟の絆“を描く本作の超実写吹替版で、尾上右近と松田元太(「Travis Japan」)が血のつながりを超えた絆で結ばれた兄弟役として初共演を果たした。

 初対面となった日にインタビューを行うと、「かわいい存在として最強」(右近)、「最強の兄貴ができた!」(松田)と笑顔を弾けさせるなど、すぐさま意気投合。「すばらしい先輩たちから、“楽しむ精神”を受け継ぎ邁進している」とエンタメに注ぐ情熱や気合においても共鳴し合う2人が、お互いへのリスペクトをにじませながら兄弟役を演じられた喜びを語った。(取材・文/成田おり枝)

◆オーディション秘話を告白!

 アフリカの大地を舞台に生命をテーマに描いたアニメーション映画「ライオン・キング」(1994)は、映画賞、音楽賞を総なめにし、2019年には超実写版が公開。ディズニー映画として世界歴代映画興収No.1を記録した。今作では、冷酷な敵ライオン・キロスから群れを守るため、新天地を目指す旅の過程で孤児から王へ運命を切り拓くムファサ。そして彼の運命を変える“弟”タカ(後のスカー)。血のつながりを超えた兄弟の絆に隠された秘密が明かされる。

――今日はお二人にとって、初対面の日だそうですね。お互いの印象を教えてください。

 右近:このお仕事が決まってから、兄弟を見るような感覚で見ていました。なんだかすでに近しいところにいる人だという気がしていて、不思議なことに初めましてという感覚がなくて。すでに安心感があるところから、初対面を果たしたという感じです。早くも「ゲンゲン」と呼ばせていただいていますが、バラエティ番組などで拝見していても天才だと思います。

 松田:いやいやいや! 僕も右近さんをよく拝見させていただいています! 今日初めてお会いさせていただき、ケンケンから「ケンケンって呼んで」(本名が研佑であることから)と言ってくださって。吹き替えの収録ではケンケンの声を聴きながら「兄弟だ」と思っていたので、今日はお会いできてとにかく光栄です。兄弟役にも気持ちが入りまくりで、プライベートでもケンケンにたくさん会いたいです。

 右近:なんなら今日、飲みに行こうかと思っています(笑)。

 松田:めちゃくちゃうれしいです!

 右近:僕は距離感がおかしいタイプなので、気をつけてね。

 松田:僕もおかしいタイプです(笑)!

 右近:安心した(笑)!

――早速、意気投合した様子のお二人ですが、オーディションについて教えてください。右近さんはムファサ役、松田さんはタカ役に抜擢されました。どのような意気込みでオーディションに臨まれましたか?

 右近:僕にとって、初めての声優のお仕事です。オーディションには、ニュアンスなど備えられるだけのパターンを用意すると同時に、ひたすら歌の練習をして臨みました。オーディションを受けるということも公言できないので、誰にも見えないように影の努力をしていました。でも気がつくと歌を口ずさんでしまっていて、「何を歌っているの?」と聴かれたりして。「大事な歌なんだ」とごまかしていました(笑)。

 松田:ケンケンがおっしゃったように、僕も自分なりにいろいろなパターンを考えてオーディションに向かいました。「これまでの人生で一番口を動かしたな」と思うくらい、滑舌の練習もしましたね。家ではもちろん、外に出た時もマスクの下では滑舌の練習をしていたり。当時はドラマの撮影中だったんですが、ドラマを観ていてもセリフがなぜか「ライオン・キング ムファサ」のセリフに聴こえてきてしまう時もあって、勝手にあたふたしていました(笑)。オーディションが終わった時は「失敗した……」と思いましたが、とにかく全力を出したので「頼む!」とアメリカに向けて念を飛ばしていました。

 右近:歌舞伎の舞台にはオーディションというものがないので、結果をいただくまでの過ごし方もまったく免疫がなくて。毎日ソワソワしていました。起用していただけて本当にうれしかったです。

◆「かわいい存在として最強」、「最強の兄貴ができた」

――「ライオン・キング」では宿敵となっているムファサとスカーですが、今作ではムファサとタカが兄弟の絆を築いています。一体彼らの間に何があったのかとても気になりますが、今作に登場するムファサとタカの魅力についてどのように感じましたか。

 右近:ムファサはとても孤独で、それを拭う方法を見つけ出していった人だと思います。ムファサが香りをきかっけにして故郷を思い出すシーンがあるんですが、僕はその場面が大好きで。埋められない孤独に対して、“自分にしかわからない感覚”を持っているんですね。僕も、“自分にしかわからない感覚”ってとても大事だと思っていて。以前、中村獅童さんに「表現をする上では、ケンケンにしか抱けない感覚がとても重要になるんだよ」と教えていただいたことがあるんですが、ムファサもそういった感覚をしっかりと持っている人だと感じています。

――芸の道に進む上では、孤独というのは糧になるものでしょうか。

 右近:この世界ではきっと、誰しもそういったところがあると思います。歌舞伎の仲間という関係性でありつつ、同時にみんな一人ぼっちでもあるというか。みんなが同じ表現をしたら誰でもできるものになってしまうので、個として存在することを大切にしながら、一人ぼっち同士の集団だという温かみを感じています。

――松田さんはいかがでしょうか。

 松田:スカーになる前のタカはとても無邪気で、思いついたらすぐに言葉にしてしまうようなかわいらしい一面があります。友情や愛も大切にしているタカにとって、ムファサの存在はとても大きなもので、ムファサに対してたくさんリスペクトを抱いています。僕自身、いつもリスペクトしながら先輩方や同世代のメンバー、タレントさんなど周囲の方に接しているので、自分のそういった部分をタカに重ねたりもしました。自分と似た部分もあるなと思うと、よりタカが好きになりました。

――タカがスカーに変化していく様子は、大きな見どころになりますね。

 松田:セリフや歌、表情など「タカの中にもうスカーがいるよね……?」と変わっていく様子は、僕自身も観ていてとても面白かったです。僕もその変化を噛み締めながら、楽しんで演じました。またタカに寄り添っていると、「そりゃそうなるよな」と感じる部分も人一倍あって。いろいろなものが蓄積されていってスカーになったんだとわかる展開には、本当にシビれました。

――タカの無邪気さという部分では、ご自身と重なるところはありますか?

 松田:僕も「好き!」「楽しい!」みたいな感じで、「単純だ」とよく言われます。タカを見ていても「単純だな、バカだな」と思いつつも、「かわいいな」と思っていました。

――たくさん愛情が湧いてきたのですね。お互いの目からご覧になって、役にぴったりだと感じる点があれば教えてください。

 右近:それはもう、この可愛げですね。

 松田:マジですか!

 右近:僕も30代に突入して、先輩として後輩に接する機会も増えて。後輩に関して「かわいいな」という視点を持てるような年齢になりました。ゲンゲンは、かわいい存在として最強の人だと思います。

 松田:うれしいです。僕は芸能界に最強の兄貴ができたと思っています。今の僕、無敵っす!

 右近&松田:(爆笑)

 松田:ケンケンは「お兄ちゃん」というよりも「兄貴!」という感じ。勝手に居心地の良さを感じていて、マジで飲みに行きたいです! ついて行きたくなる感じが、めちゃくちゃあります。

――リン=マニュエル・ミランダが書き下ろしたオリジナル楽曲も、物語とテーマをより深いものにしています。ムファサ、タカとしての歌唱において大切にしたのはどのようなことでしょうか。

 右近:ムファサとしては、孤独感が際立つように歌うことが重要になりました。兄弟で歌う楽曲やラブソングもありますが、根底には孤独な気持ちがある。劇中歌を実際に歌わせていただくと、物語に寄り添った楽曲でありつつ、きっと誰もが「いい曲だな」と感じるようなカラーがしっかりとあって本当にすごいなと思いました。

 松田:タカは心の声が漏れ漏れになっている曲や、兄弟と一緒にルンルンと楽しそうにしている曲もあれば、スカーになる瞬間の歌もあります。そこではガラッと雰囲気が変わりますが、タカであることも大切にしながら、流れを止めずに歌えたらと思っていました。ディズニーの楽曲は人の心を動かしてくれるような音楽ばかりなので、タカの思いをたくさんの人に届けたいという気持ちで全力で歌いました。

 右近:僕も歌が大好きなので、これからも機会があったらどんどん歌っていきたいなと思っています。僕の実家は、清元という歌舞伎の音楽をやる家なんですね。だからこそ歌をやっていきたいという思いもありました。

 松田:松田家では、よくミュージカルごっこをするんです。特に「モアナと伝説の海」が好きで、みんなでモアナの楽曲を歌っています。その中でマウイの歌う「俺のおかげさ」という曲は、僕のカラオケの十八番で。ライブにおいても、よく「俺のおかげさ」を聴いてマウイの気分になって臨んでいます。

 右近:(日本語吹き替え版でマウイ役を演じる)尾上松也さんに伝えておきます(笑)。

◆エンタメ道を突き進む極意「楽しむことを忘れずに」

――本シリーズは、魂を受け継いでいく“継承の物語”でもあります。お二人とも偉大な先輩たちがいらっしゃると思いますが、先輩の姿を見て「受け継いでいきたい」と感じていることはありますか?

 松田:先輩方のステージを見ても、先輩方がやっているお仕事の幅を見てもすごいなと思います。アドバイスをいただいたり、先輩の背中を見て学ぶこともあったり、尊敬する皆さんのようなカッコいい人間になれるよう、日々精進あるのみだなと思っています。また伝統として受け継いでいきたいと思うのは、“楽しむこと”です。「どんな状況でも楽しめよ」というのはいろいろな方からいただく言葉なので、それを忘れずに行動していきたいです。

 右近:それは僕もまったく同じですね。歌舞伎の世界にも伝統や様式、家柄などいろいろありますが、やっぱり骨の髄から楽しんでいる人が一番魅力的です。永遠に青春、大人の青春を死ぬまでできる仕事だと思っているので、いつまでも楽しんでいたいです。その上で欠かせないのは、仲間です。先ほど孤独だという話をしましたが、同時に「俺は俺で走っているけれど、パッと横を見るとずっとお互いに走っている」という人を見つけられる。青春の1ページをずっと重ねていっているような気持ちです。

――400年以上の歴史がある歌舞伎の世界において、伝統を受け継いでいる喜びもありますか。

 右近:その喜びは強くあります。楽しんだりコミュニケーションを取ることを大事にしながら、歌舞伎に捧げているという感覚もどこかあって。先輩たちのそういった背中を見てきましたし、これからは自分が後輩たちに背中を見せることも大事になってくるんだなと思っています。

 松田:僕も、全力で楽しんでいる姿を後輩に見せられたらうれしいです。また物理的にも「背中を見てね!」と言いたいです。背中を磨いていきます!

 右近:比喩表現じゃないんだ(笑)!

――あらゆるジャンルに果敢に飛び込んでいるお二人ですが、人生のモットーにしていることがあれば教えてください。

 右近:七転び八起きです。仕事においても毎回落ち込むんですが、「もっと良くなりたい」という執着があるので、立ち上がらざるを得ない。七転び八起きせざるを得ない……といったところです。僕は本当に諦めが悪くて。歌舞伎の初日なんて毎回とにかく緊張するし、不安だし、向いていないな、これで終わりかもしれない……と思うんです。でもずっと歌舞伎が「好きだ」という気持ちがあるので、好きでやっている以上は良くなりたい、諦めたくないという、未練がましい男なんです(笑)。

 松田:ケンケンに怖くなることがあるなんて、意外です……。本当に今日は勉強になります。僕のモットーは、「よっしゃー!」ですね。落ち込むこともありますが、当たって砕けろという精神を大事にしています。先輩など誰か相談できる方に「助けてください」「どうすればいいですか」といろいろと聞いて、あとは「よっしゃー!」と切り替えます。もちろん恐れもありますが、「とりあえず行こう。レッツゴー!」という気持ちを大切にしています。

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