「ただいま それぞれの居場所」「ケアを紡いで」の大宮浩一監督の最新ドキュメンタリー映画「そして、アイヌ」が3月15日から公開される。特報、場面写真、中心的存在となる宇佐照代さん、美術作家の奈良美智氏ら出演者からのコメントが披露された。
大久保にあるアイヌ料理店「ハルコロ」(※ロは正しくは小文字)店主で、アイヌ文化アドバイザーの宇佐照代さんを中心に、アイヌのみならず、在日コリアン、被差別部落といった今なお根強い差別や偏見の問題、そして世代などを飛び越え引き継がれていく大切な文化や想いを映し出し、より多様になってくるであろうこれからの未来のためのヒントが詰まったドキュメンタリーだ。
東京・大久保に賑わう一軒のアイヌ料理店「ハルコロ(HaruKor)」。アイヌのことばで「食べ物(穀物)・持つ」を指し、「食べ物に困らないように」という願いがこめられている。店主は宇佐照代さん。アイヌ文化アドバイザーとして若い世代へ舞踊や楽器演奏などの伝承活動も行う照代さんは、小学生のころに生まれ育った釧路を離れ、母と5人きょうだい全員で東京に移住。2011年にオープンしたレストランには多様なルーツをもつ人びとが国内外から訪れ、味わい、繋がる場となっている。
「ハルコロ」の成り立ちには、長いあいだ関東在住アイヌの居場所づくりに奔走していた照代さんの祖母や母の想いがあったた。2019年にようやく先住民族としてアイヌが法律に明記されたものの、取りまく偏見や差別がなくなったとは言い難い現実があり、照代さんの曾祖母から子に至るまでの家族のライフヒストリーを紐解きながら、アイヌと出会った人びと――美術作家・奈良美智氏、評論家・太田昌国市、写真家・宇井眞紀子氏、朝鮮/韓国民謡奏者・黄秀彦氏、カムイノミ祭司/縄文造形作家・平田篤史氏の活動を道しるべに、文化の継承とアイデンティティ、開発と多様性、植民地主義と人権といった問いに向き合っていく。
日本社会の多様なコミュニティのあり方に眼差しを向け続ける大宮監督が、「出会い、知り、気づき、伝えること」を実践している人びとの姿を映し、照代さんの奏でるムックリ〈口琴〉の音色に導かれるように、互いをいがみ合うことに慣れてしまった現代の先を照らす旅に誘う。「そして、アイヌ」は、3月15日からポレポレ東中野ほか全国公開。
▼コメント一覧
【大宮浩一監督メッセージ】
宇佐照代さんのお話や活動を通してたくさんの事を学ばせてもらいました。また、奈良美智さんや太田昌国さんはじめ、照代さんの友人の方々にもグイグイ惹き込まれました。それは、大文字の情報で解ったつもりでいたアイヌや在日コリアン、民族やアイデンティティ、マイノリティについて具体的に個人史として語ってもらえたからだと思います。本作をご覧頂き、ますます“多民族国家ニッポン”になるであろう近い将来へ向けて希望のヒントを探って頂けれ
ば本望です。
【出演者メッセージ】
宇佐照代(アイヌ文化アドバイザー、「ハルコロ」(※ロは正しくは小文字)店主)
北海道(故郷)を離れた祖母、母、同胞。様々な理由、苦しい日常から逃れたかった、離れたのに、落ち着かない自分も居る。でもいつか戻りたい、あの大好きな空気、水、匂い。祖母が言った「誇りを持て」。誇りを持ち母の眠る故郷に私も……。
そんな想いと祖母や母達の願いとともに、故郷を離れた同胞達が安心して集える場所にしたい、と
奈良美智(美術作家)
人は人のどこに惹かれるのか? なぜ関わりを持とうとするのか? その答えは映画の中に登場する魅力的な人々がおしえてくれるでしょう…自分も出てるんだけど(笑)
太田昌国(評論家)
1994年、東京初のアイヌ料理店「レラ・チセ」が開店した。若き日の照代ちゃんはフロアで立ち働いていた。それから 30 年、彼女はいまアイヌ文化の発信者であり、第 2 のアイヌ料理店「ハルコロ」の店主だ。その間に育くまれた、重層的で、豊かな諸関係をこの映画は描ききった。
黄秀彦(朝鮮/韓国民謡奏者)
今も悶々としたり悩んだり 一歩踏み出せないでいる人達に是非このドキュメント映画を観て欲しいです。子どもの頃僕は差別、偏見に押し潰された 心がくじけ明日に希望が持てなかっためげずに立ち上がる人達に一条の灯りを見た 救われた 今は真似をしています
平田篤史(カムイノミ祭司/縄文造形作家)
狩猟採集を中心に1万数千年つづいた縄文文化は、形を変えながらアイヌ民族に受け継がれました。アイヌ民族イコール大自然と思われがちですが、大都会東京の真中で、その伝統はしっかりと受け継がれています。