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2024年の中国映画市場における日本映画は大ヒット? それとも……? アニメと実写で明暗分かれる【アジア映画コラム】

映画.com 2024年12月21日 16時0分

 北米と肩を並べるほどの産業規模となった中国映画市場。注目作が公開されるたび、驚天動地の興行収入をたたき出していますが、皆さんはその実態をしっかりと把握しているでしょうか? 中国最大のSNS「微博(ウェイボー)」のフォロワー数280万人を有する映画ジャーナリスト・徐昊辰(じょ・こうしん)さんに、同市場の“リアル”、そしてアジア映画関連の話題を語ってもらいます!

 中国映画市場は、予想より早くコロナの影響から回復し、2023年の年間興行収入が1兆円超。2024年の先行きは楽観視されていましたが、旧正月の興収から“不安の声”が漏れ始めました。

 日本映画「百円の恋」のリメイク作品「YOLO 百元の恋」など30億元級の興収を記録した作品もありますが、市場全体は昨年ほど盛り上がっていませんでした。この傾向は、夏休み興収で一気に加速。夏休みの興収は、約4割減の116億元(約2366億円)。コロナ期間中の2020~2022年を除けば、2014年以来最も寂しい数字となっています。

 夏休みの興収に関して、第66回のコラム「中国映画市場“2024年・夏休み興行”急激な低迷の理由は? 『エイリアン ロムルス』はノーカット公開→大ヒットに」(https://eiga.com/extra/xhc/66/)で詳しく解説していますので、ぜひご一読ください。

 そんななか、是枝裕和監督作「そして父になる」の上海公開記念プレミア上映が11月30日に行われ、是枝監督とリリー・フランキーが現地で舞台挨拶に臨みました。その翌日、ふたりは北京大学でのティーチインに登壇。女優のチョウ・ドンユィも参加し、大きな話題を呼んでいました。

「そして父になる」は、第17回上海国際映画祭で上映されましたが、中国での劇場一般公開は“初”になります。2024年、中国公開された日本映画はすでに22本。中国における日本映画の年間公開本数の歴代記録(2019年:24本)を更新しそうな勢いです。

 そこで今回は、今年の中国における日本映画の現状について語っていこうと思います。

 なぜこんなに多くの日本映画が、中国で公開できたのか――理由は大きく2つあります。

 ひとつは、市場の不振。特に、中国で公開される外国映画の興収は、コロナ後に急落。多くのハリウッド映画が、北米と同時公開したとしても、寂しい数字になった事例が多かったんです。

 2022~2023年は、コロナの影響で中国映画の制作本数も減ったタイミングで、その影響が2024年に生じました。ですから、中国映画以外の作品がより多く上映されないと、市場の状況はさらに深刻化するため、日本映画などの非英語圏の外国映画の上映本数が増えたのです。

 2つ目の理由は、日本映画、特に日本アニメーション映画のブランド力です。

 日本のアニメ映画は、ハリウッド映画に続いて、中国で最も信頼されている“海外映画作品”です。昨年の「すずめの戸締まり」「THE FIRST SLAM DUNK」の大ヒットによって、日本アニメ映画のブランド力はさらに強化されたと思います。

 中国のバイヤーの間では、日本のアニメ映画への関心度はさらに高くなっていますし、日本アニメ映画のセールス担当もいち早く中国側と連携を取り、積極的に中国市場に進出しています。

 今年の大きな特徴のひとつが、上映日程がより早くなっていること。これまで中国における日本映画の公開は、日本での封切りから半年、あるいはさらに長い期間を空けて、中国で公開するというパターンが多かった。こうなると海賊版の影響が大きくなり、口コミの良い作品、有名監督の作品以外は、ほとんど悲惨な興収で終わってしまいました。

 しかし、昨年の「すずめの戸締まり」「THE FIRST SLAM DUNK」は、日本での封切りから3、4カ月後に中国で公開されました。海賊版に影響されにくいタイミングですし、作品自体も非常に出来が良かったので、素晴らしい興収を記録しました。

 このような成功例もあり、今年中国で公開された日本アニメ映画の大半は、日本での封切り後、3、4カ月以内に中国公開を実現させています。たとえば、宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」は7.91億元(約162億円/現時点で2024年中国における外国映画の興収ランキング2位)を記録。

 その他の事例としては「劇場版 SPY×FAMILY CODE: White」(2.93億元=約60.1億円)、「名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)」(2.86億元=約58.7億円)、「映画ドラえもん のび太の地球交響楽(シンフォニー)」(1.3億元=約26.7億円)、「劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦」(1.29億元=約26.5億円)、「映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記」(1.16億元=約24.3億円)、そし中国初公開となった「ハウルの動く城」(1.67億元=約34.3億円)。今年興収1億元を超えた日本映画はすでに7本となっており、この数字は“史上最多”です。また「ルックバック」(5350万元=約11億円)、「劇場版ブルーロック EPISODE 凪」(3344万元=約6.9億円)も健闘し、中国における日本アニメ映画の注目度はどんどん強まっています。

 今年のTIFFCOMには、昨年中国で「すずめの戸締まり」「THE FIRST SLAM DUNK」を大ヒットさせ、今年も「劇場版 SPY×FAMILY CODE: White」「劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦」などの日本アニメ映画を多く配給した「Road Pictures」グループがセミナーを開催。代表の蔡公明氏が、中国映画市場、中国二次元市場の現状をはじめ、「Road Pictures」が配給した日本アニメ映画の成功事例、そして、中国における2次元IPのブランド強化など、90分に渡って、丁寧に細かく説明していました。日本の映画会社の関係者、中国配給会社の関係者、各国の記者など多く参加し、会場は非常に盛り上がりました。

 近年、日本アニメ作品は中国での影響力がどんどん強まっているので、今後さらなる発展が見込めそうです。ちなみに、これは決して簡単なことではありません。中国市場は非常に特別な市場。海賊版の影響が常にあり、時々“予想外”のことが起こったりします。“海外作品のブランド”がここまでのポジションを築けたのは、日本アニメの高いクオリティのほか、日本の制作側、そして中国の配給側の努力がないとできないことです。

 一方、日本の実写映画はどうでしょうか?

 2024年現在、中国における日本実写映画の歴代興収1位は、是枝裕和監督の「万引き家族」です。2018年に公開されて以来、不動の1位として君臨し続けています。

 是枝監督は、中国国内でも最も人気な監督として知られています。かつて中国で日本映画がなかなか公開されていないときでも、是枝作品のほとんどは映画祭で披露され、ご本人も中国に足を運び、映画ファンと交流していました。「そして父になる」は12年前の作品ですが、多くの映画ファンが“劇場でもう一度観たい”と熱望していた作品です。

 ただ、市場と興収の視点から見ると、メジャーエンタメ作品ではない是枝作品が、ずっと“中国における日本実写映画の興収1位”の地位にいるのは、何かもの足りないと思ってしまうのも事実です。

 現時点で日本国内での“実写映画年間興収No.1”を記録した「ラストマイル」は、中国では11月9日に公開されました。日本での公開は8月23日でしたから、日本の実写映画としては異例のスピード感です。

 では、興収はどうだったのでしょうか。小規模公開が続いていますが、現時点の興収は688万元(約1.4億円)。今年中国で公開された日本映画のなかでは16位という残念な結果。なぜここまで低い数字になっているのでしょうか? 口コミは決して悪くないですが、ほかに何か問題があるのではないかと思います。

 日本の実写映画に関して、コラムの第19回「なぜ『リトル・フォレスト』が大人気なのか?“TOP250”から読み解く、中国でウケる映画の傾向」(https://eiga.com/extra/xhc/19/)でも書いたように、中国では、多くの日本実写映画が評価され、注目されています。しかし、日本のアニメ映画と異なり、日本の実写映画に対しては市場の分析、業界との交流はうまく機能していなかったように見えています。

 TIFFCOMの「Road Pictures」のセミナーでは、蔡社長も中国における日本実写映画の現状を分析しました。問題点として挙げたのは「IP推進力に欠けること」「日本の芸能人が中国における認知度が低いこと」「日本実写映画の独自性」など。ただ、このあたりの問題は絶対に解決できないことではないと思っています。

 たとえば「ラストマイル」。「アンナチュラル」が放送された時、中国で非常に話題になっていたので、IPとしての可能性を感じました。「ラストマイル」には中国で共感されるような物語要素があったはずですが、そこがきちんと伝わっていなかったような気がします。

 中国映画市場は大きい――しっかりと市場の中身を理解しなければ、簡単に成功することができません。日本アニメ映画はすでに中国映画市場の一角を占めています。日本の実写映画は、アニメ映画以上にさまざまな工夫をこらさないと厳しい結果が続くでしょう。

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