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相米慎二とは“何者”か? 黒沢清、行定勲、瀬田なつき、森井勇佑、山中瑶子が語り尽くす「演出家として敵わない」

映画.com 2024年12月23日 17時0分

 相米慎二監督作「お引越し」「夏の庭 The Friends」4Kリマスター版の公開を記念したトーク付き先行上映イベントが12月21日、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下で開催され、黒沢清監督(「Cloud クラウド」)、行定勲監督(「リボルバー・リリー」)、瀬田なつき監督(「違国日記」)、森井勇佑監督(「「ルート29」)、山中瑶子監督(「ナミビアの砂漠」)が出席。映画監督たちによる“相米慎二トーク”が繰り広げられた。

 同イベントに集った監督陣は、それぞれ異なる形で相米監督と関わりを持っている。黒沢監督は、「セーラー服と機関銃」(1981)で助監督を務め、「ディレクターズ・カンパニー」(長谷川和彦、根岸吉太郎ら若手監督9人による企画・制作会社)の一員としても個人的に親交があった。行定監督は「夏の庭 The Friends」の撮影監督・篠田昇と、デビュー作の「OPEN HOUSE」から「世界の中心で、愛をさけぶ」までタッグを組んでおり、瀬田監督は「風花」が最初で最後のリアルタイムで観た相米作品で、「子供たちがイキイキしている作品作りに影響を受けた」という。22年に公開された「こちらあみ子」が「お引越し」から影響を受けていると公言するのは、森井監督。山中監督は、世代的にリアルタイムでは触れていないが、名画座での上映で出会って衝撃を受けたようだ。

 イベント前日のXにて「相米慎二映画きらいな人っていなくない?」とポストしていた山中監督は、「みんな、やっぱり少なからず影響を受けているのではないでしょうか」と、若い世代にも相米作品は浸透していると話す。

 そんな山中監督が劇場で初めて観たのは「雪の断章 情熱」。冒頭の15分ほどにも渡る長回しに特にぐっと引き込まれたという。これには黒沢監督も一番“凄まじい最高傑作”だと賛同。

黒沢監督「物凄いものを観せられている、と思った。脚本から全く違うところに飛んでいってしまう人なんだな」

 行定監督は「亡くなってもう23年も経つのに、今月だけでも“相米慎二”の名前を3回ぐらい俳優から聞きました」。浅野忠信、永瀬正敏、そして「お引越し」で父・ケンイチを演じる中井貴一と当時の話になった時には、現場での”無茶ぶり”エピソードを打ち明けられたそうだ。「そういったエピソードすら俳優たちは嬉しそうに喋っていて、憧れます。(演出家としても)敵わないなって思っちゃう」と、俳優たちにそれだけの印象を残し、相米監督作品の謎について、いまだにだれかが語っているということにも羨ましさも覚える気持ちを明かした。

 黒沢監督にとって初めての相米作品は、親しかった特権で観たデビュー作の「翔んだカップル」の3時間バージョン。アイデアを求められて試写で観たというが「せっかくアイデアを出した部分はカットされていて、その理由を聞いたら、『お前が良いって言ったから』って」と、笑い混じりで苦渋のエピソードも。同時に、完成した映画は「ものすごくぶっ飛んだ物語で、この人は物語はどうでもいいんだなと思った」と語りつつ、「物語のことをようやく計算し始めるなど、作品に変化があったのが『お引越し』あたり」と相米監督の変化も語った。

 作品のなかで物語を語りながらも、俳優の躍動する肉体を上手く使った演出をみせている、新世代を代表する山中監督と森井監督。「3テイク以内で撮影を終わらせようと心がけている」という山中監督は、入念なリハーサルやテイクを重ねるといわれる相米監督のことを頭に浮かべながら「何度も(俳優に)やらせるものか!」と現場に臨んでいると語る。

 森井監督も同意しつつ、その裏には「相米監督のメイキング映像を観て、俺は(こんな風には)できないと思って、どうすればいいのかを考えてのこと」だそう。

 東京藝術大学で黒沢監督にならった瀬田監督は、黒沢監督から“相米慎二は反面教師だ”といった授業を受けたという。「(相米監督のように)およそ100テイク目までいくか、1テイク目で撮り終えるか、どちらか」という話を聞き、「一度くらい100テイクぐらい撮ってみたい」が、全く想像がつかない次元なので、「回数を重ねて、何か失われていくものがあるのかも」と少ないテイクで押さえるようにしていると語る。

 行定監督の現場はリハーサル、テイクともに重ねるという意味では、相米監督に近しいともいえる。それに対しては「飽きるぐらいのときがお芝居的にいいかな、と(思って)」。話によれば、相米慎二は明確な“OK”を出さず「どう動くんだ」「それでいいのか」と常にスタッフや演者に投げかけていたそう。「時間の制約の中で撮りたいものを撮るために、どうしても答えを言ってしまいがちな撮影の中で、それだけのことができるのはよっぽどの忍耐と、どこかで破綻してもいいという覚悟がないとできない」と力強く語った。

 相米監督の現場にも入っていた黒沢監督は、「お引越し」以降のカメラは「“光”の扱い方が凄く良い」と俳優への演出以外にも触れた。「撮影した『お引越し』栗田豊通さん、『夏の庭 The Friends』篠田昇さんの力と、相米さんが俳優の演技よりも“光”を優先している結果が繋がっているのだと思う」と“破綻しなくなった”相米映画「お引越し」「夏の庭 The Friends」を絶賛。

 特に「お引越し」のとあるシーンについては「お手本のよう」と語る。桜田淳子演じる母・ナズナがある行動をとるシーンで、「日本映画史に残る代表的なシーン。まいったなと感じました」と、桜田淳子の鬼気迫る演技と、カットを割っているのにそれを感じさせない自然な流れに触れた。演出については相米映画で象徴的な雨降りのシーンで、なぜ手前の方しか雨が降らないのか行定監督から質問があり、黒沢監督は「現場が付いていけていないから」としつつ、でも「ヘンテコなことが好きだったんだと思います」と笑い交じりに語る場面もあった。

 4Kリマスター版として新たに、公開当時から30年が経って再発見されたことについて行定監督は“時が経っても決して色褪せていない”と話す。相米監督デビュー作の「翔んだカップル」から観てきた行定監督は、「僕の世代は相米作品は必ず“いつ公開されるんだ”と楽しみに待望していて、すぐに観て語られるような存在」と語る。「相米作品は“死”の匂いがすごくある。今回上映される2作品はその匂いがしながらも、子供たちの姿が浮き彫りになっていることで“生”の匂いもある。普遍性をテーマにして、はちゃめちゃに物語を解体したり、反対にもっと深くまで掘っていくところが相米の独自性」と、時代性をも超越していく相米作品の魅力を語り、「若い人たちには新作を観るような気持ちで触れてもらえたら、すごい衝撃になるのでは」と、想いを託すように語る。

 黒沢監督からは「今回4Kリマスターされた2作品は“ひと夏の経験”を描いたもの。子どもが夏休みにこんな経験をしたというだけの話でこんなにもすごい作品ができるということも含めて、今こそ日本以外でも相米慎二監督作品を観ていただきたい」と締めくくった。

 「お引越し」「夏の庭 The Friends」4Kリマスター版は、12月27日よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開。

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