映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
年末の2024年12月30日(月)から木村拓哉主演作「グランメゾン・パリ」が公開されます。
公開日が年内最終の週末12月27日(金)からではなく、12月30日(月)からというのは割と珍しい設定のように思いますが、これは今後「TBS映画」では常套手段となるのかもしれません。何故なら、3年前(=2021年)に公開された松本潤主演の「99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE」も“12月30日(木)公開”となっていたからです。
この2作品の共通点は、共にTBS系列の「日曜劇場」(21:00〜21:54)の連ドラ作品ということ。そして、この枠は「高視聴率を叩き出せる枠」として定着していて、制作費を通常よりもかけられ、それが作品のクオリティーを高めることにもつながっています。その結果、この枠から大ヒット映画も誕生する流れが出ている。まさに「グランメゾン・パリ」もその1本になりそうなのです。
この流れのきっかけとなっている作品が、2016年4月から6月まで放送された「99.9 刑事専門弁護士」。好評につき2018年1月から3月まで「SEASON II」も放送されています。
そして、この作品の劇場版「99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE」の公開日を12月30日としたのです。年末に公開日を持ってこられるのはテレビ局が少なからず関係していると言えるでしょう。年末のお休み期間にテレビジャックを行うことで、連ドラの再放送に加えて、映画へと続く「スペシャルドラマ」を公開前日の12月29日に放送して空気を醸成していきました。
また、スペシャルドラマの前週は「日曜劇場」の通常枠の最終回が放送されていたりと「日曜劇場」が盛り上がりを見せることが多く、「日曜劇場」を通して効果的にプロモーションを行うこともできるのです。
これらが上手くハマり、「99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE」は興行収入30.16億円を記録しました。
「99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE」の配給会社は松竹。一方、「グランメゾン・パリ」は東宝、ソニー・ピクチャーズエンタテインメントに変わりましたが、TBS主導の映画として同様の成功パターンが踏襲されているのです。
では、「グランメゾン・パリ」の興行収入はどのくらい期待できるのでしょうか?
まず、本作を見る前は、私は作品の出来にとても興味がありました。というのも、本作のメガホンをとったのは塚原あゆ子監督で、これまでの「コーヒーが冷めないうちに」「わたしの幸せな結婚」「ラストマイル」とは毛色が異なる作品だからです。
果たしてどのように料理するのかと見てみましたが、期待通りの作品でした。やはり「テレビ局映画の強さ」を大きく感じました。
かつての映画監督は映画会社が育てる時代がありましたが、それが“テレビ局が育てる時代”へと引き継がれていきます。テレビの連ドラは、それこそ作品の題材はクール毎に異なるので、担当ディレクターは“オールジャンル”で鍛え上げられるような仕組みがあるのです。まさに本作のような「料理映画」でも、熟練の腕前を見事に披露していました。
以上を踏まえて「グランメゾン・パリ」の興行収入について考えてみます。
まずは視聴率では、「99.9 刑事専門弁護士」の「SEASON I」の平均視聴率は17.2%となっています。(ビデオリサーチ調べ。関東地区・世帯、以下同)
「SEASON II」の平均視聴率は17.6%となっています。
また、「映画公開前夜祭」は13.9%となっています。
一方の本作のテレビドラマ版の「グランメゾン東京」は、2019年10月から12月まで放送されて平均視聴率は12.9%。
現時点での視聴率のデータでは、「グランメゾン・パリ」は「99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE」の7割強ということで興行収入22億円程度ということになります。
ただ、「グランメゾン・パリ」は舞台がパリだったり、日本の映画としてはかなり高額な制作費となっています。
そして、そのこだわりが効いて作品のクオリティーはかなり高くなっているので「映画向きな作品」とも言えるのです。
そのため、「グランメゾン・パリ」は「99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE」と同等の興行収入30億円は十分に視野に入ります。
なお、本作はスペシャルドラマとセットで制作されているので映画だけの制作費は算出しにくいのですが、6、7億円程度の制作費だと思われます。
そうすると、興行収入22億円あたりで劇場公開だけでリクープ可能なので、まずは22億円が第1関門、30億円が第2関門ということになりそうです。
本作で注目すべきは「大人の上質な作品」というイメージなので、どれだけ大人の映画ファンを呼び込めるかで興行収入が大きく変化しそうな点です。
果たして本作のように出来の良い作品がどのくらいまで支持を得て「料理映画」のポテンシャルを引き上げられるのか――大いに注目したいと思います!