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ノルウェーで自給自足生活を送り、母を亡くした家族の3年間を追ったドキュメンタリー「ただ、愛を選ぶこと」4月公開

映画.com 2025年1月21日 12時0分

 母を亡くした家族の3年間の歩みを追いかけた、ノルウェーのドキュメンタリー「A NEW KIND OF WILDERNESS(英題)」が、「ただ、愛を選ぶこと」の邦題で、4月に公開されることがわかった。第40回サンダンス映画祭ワールドシネマ・ドキュメンタリー部門で、審査員大賞を獲得した。

 本作の製作のきっかけは、物語の中心となるペイン家の母で写真家のマリアが、インターネットで発信していたシンプルで愛に溢れた暮らしに、シルエ・エベンスモ・ヤコブセン監督が魅了され、ドキュメンタリー番組を企画したこと。その後、番組が実現する前にマリアが亡くなるという悲劇に見舞われるも、ヤコブセン監督は彼女のメッセージをより多くの人に伝えたいという思いから、ペイン家の父と子ども4人の撮影を開始。ひとりひとりに寄り添いながら、彼らがマリアの死と向き合い、前に進んでいく姿を記録した。

 さらにマリアが遺した、家族や自然への愛に満ちた詩的な文章と写真を全編に使用。第三者であるヤコブセン監督の視点と母マリアの視点、現在と過去がゆるやかに行き来するユニークな構成も、見どころのひとつとなっている。

 お金では買えない豊かさと自由を求め、美しい北欧・ノルウェーの森で自給自足生活を送るペイン家。子どもたちは学校へ通う代わりに両親から学び、自然の恵みをいっぱいに浴びながら成長してきた。だがあるとき、家族の中心だった母の病死を境に、全てが一変。唯一父と血のつながりがない長女は家を去り、父は実子3人と、いままで通りの暮らしを何とか守ろうとするものの、家計や教育の問題など、さまざまな現実の壁に直面する。初めての学校、なじみのない土地での新生活、そして何より最愛の母の不在……深い悲しみと戸惑いのなかで、遺された家族はそれぞれ何を思い、何を選ぶのか――?

 邦題「ただ、愛を選ぶこと」は、マリアが家族に遺した詩の一節「just simply choosing love」を採用したもの。マリアが綴った詩は、家族への愛情がこもった言葉で溢れており、特に「love」は詩のなかで多く使われ、マリアを象徴する言葉として登場する。「ただ、愛を選ぶこと」の一節は、マリア亡き後、遺された家族がその死に向き合い、互いへの愛情と絆で困難を乗り越えていく姿を象徴する言葉のようだ。

 あわせて披露されたポスターには、マリアが家族との日々を撮影した実際の写真を使用。各写真には撮影日が刻まれており、彼女が発信していたInstagram風のデザインとなっている。ペイン家の父ニックと4人の子どもたち――末っ子・ウルヴ、長男・ファルク、次女・フレイア、長女・ロンニャの生き生きとした表情をとらえた写真は、劇中にもたびたび登場する。

 家族の喪失と再生を優しく描いた本作は、第40回サンダンス国際映画祭のワールドシネマ・ドキュメンタリー部門で、「哀切極まりない感情と映像美に満ちている」(バラエティ)、「小さな家族の物語から、想像をはるかに超えた愛情が伝わってくる」(ハリウッド・レポーター)など絶賛され、審査員大賞(グランプリ)に輝いた。同時にNHKが世界の優秀な教育コンテンツ発展のために創設した日本賞でも特別賞を獲得し、以降もシアトル国際映画祭、“ノルウェーのアカデミー賞”と呼ばれるアマンダ賞などでドキュメンタリー部門の最高賞を受賞。一部の映画祭では、ヤコブセン監督とともにペイン一家も壇上に立ち、観客たちと交流するなど、注目を浴び続けている。

 最愛の人との別れと、その後も続く人生。冒頭こそ「はじまりへの旅」などを彷ふつとさせる、型破りでワイルドなライフスタイルに目を奪われるが、家族の心の痛みと癒しをスクリーンで追体験するうちに観客の胸に突き刺さるのは、「aftersun アフターサン」などと共通する、大切な人の愛情と思い出を抱えながら生きることの切なさと尊さだ。喪失の先にあるものとは何か、いまを生きるとはどういうことか、全ての人に問いかける作品となっている。

 「ただ、愛を選ぶこと」は、4月に東京・シネスイッチ銀座ほか全国公開。

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