吉村昭の小説を映画化した時代劇「雪の花 ともに在りて」の初日舞台挨拶が1月24日、東京・有楽町の丸の内ピカデリーで行われ、主演の松坂桃李、共演する芳根京子と役所広司、脚本も手がけた小泉堯史監督(「雨あがる」「博士の愛した数式」「峠 最後のサムライ」)が登壇した。
江戸時代末期の福井藩を舞台に、数年ごとに大流行する疫病から、人々を救おうと奔走した実在の町医者の姿を描く。本作は、1月16日に急性心筋梗塞のため、87歳で亡くなった撮影監督の上田正治さんの遺作。黒澤明監督の作品を数多く手がけ、小泉監督にとっては、助監督時代から数え、50年を超える親交があった“盟友”だ。
小泉監督は「昨日葬儀が終わりまして……、本当に残念。すばらしいキャメラマンであり、本当に惜しい人を亡くした」と哀悼の言葉。「黒澤さんはよく『キャメラは芝居しちゃいけない』と言っていたが、それは難しいこと。上田さんのように、奇をてらわず、フィルムで撮れる人はいない」と語り、「上田さんの良さは、大スクリーンで見てこそわかるもの。ぜひ、もう一度、今度は上田さんのキャメラを見ていただければ」と観客に呼びかけた。
また、松坂は「山など大変なロケ場所でも、ご自分で機材を担いでいらっしゃった。ものすごいパワーとエネルギーを、間近で見られたことが幸せだったんだと実感している」と最敬礼。小泉組に初参加し「朝、現場入りすると、照明やカメラがセッティングされていて、1回リハをしたらもう本番。長くても午後3時には撮影が終わって、翌日のリハーサルに入る日々は充実していた。とても健やかな現場。改めて時代劇っていいなと思った」と、日本映画の伝統を受け継ぐ現場の様子を振り返っていた。
松坂が演じるのは、痘瘡(天然痘)の有効な予防法として、天然痘の膿をあえて体内に植え込むという種痘の普及を目指す主人公の笠原良策。疫病と戦った実在の人物に挑み、「未知なものへの不安や恐怖は、昔もいまも変わらないと実感した」といい、偉業を成し遂げたのは「妻の存在のおかげ」と、良策の妻・千穂を演じた芳根に感謝を伝えた。
その芳根は、劇中で太鼓の演奏にチャレンジしており、「小泉監督が稽古場で『芳根京子は、こんなもんじゃない』と鼓舞してくださり、モチベーションになった」と感謝し、「いまも体に染みついていて(太鼓のばちに似た)マイクを持つと、角度が気になってしまう(笑)」。松坂は「ずっと手首にテーピングをしていて。どれだけ大変なことだったか、肌で感じましたし、太鼓のシーンには圧倒されました」と労をねぎらった。
役所は、良策を導く蘭方医・日野鼎哉役で、松坂とは5度目の共演だ。「松坂さんの誠実さが、志を諦めない良策という男にぴったり。普段、いい人なのか知りませんけど(笑)、ものすごく合っている。松坂さんしか、思いつかない」と太鼓判。一方、松坂は「今日はしっかり眠れそう」と安どの表情を見せ、「役所さんからのセリフが、役を飛び越えて、僕自身にグサッと刺さった。この感覚は、いままでに味わったことがない」と、尊敬の思いを新たにしていた。