第74回ベルリン国際映画祭(2024年)で最優秀ドキュメンタリー賞と観客賞を受賞、第97回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞にノミネートされている「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」。俳優の池松壮亮がナレーションを担当した日本版予告編が公開された。
本作は、パレスチナ人とイスラエル人の若手監督によるドキュメンタリー映画。舞台となるのは、イスラエル軍による破壊行為と占領が今まさに進行している、ヨルダン川西岸のパレスチナ人居住地区「マサーフェル・ヤッタ」。本作は、この現状をカメラに収め世界に発信することで占領を停止させ、故郷の村を守ろうとするパレスチナ人青年バーセル・アドラーと、彼に協力しようとその地にやってきたイスラエル人青年ユバル・アブラハームの2人による決死の活動を、2023年10月までの4年間に渡り記録している。
「マサーフェル・ヤッタ」の住民たちが家や小学校、ライフラインを目の前で破壊され強制的に追放されていく、あまりに不条理な占領行為を、そこで暮らす当事者だからこそ捉えることのできた至近距離からの緊迫感みなぎる映像であぶりだしていく。同時に、バゼルとユーバールが、パレスチナ人とイスラエル人という立場を越えて対話を重ね理解し合うことで生まれる奇跡的な友情と、ただ故郷の自由を願い強大な力に立ち向かい続ける人々の姿も映し出していく。監督は、彼ら自身を含むパレスチナ人2人・イスラエル人2人による若き映像作家兼活動家たち4人が共同で務めている。
日本版予告編は、マサーフェル・ヤッタにあるバーセルの暮らす村をイスラエル軍の無数の軍用車両が急襲し、彼がビデオで撮影していたために兵士に襲いかかられる緊迫の場面で幕を開ける。彼はイスラエル軍の不当な行いに心を痛めてこの村にやってきたジャーナリスト・ユバルからのサポートの申し出を快く受け入れるが、バーセルとともに占領に抗ってきたハムダーンがユバルに「イスラエル人だろ? 侵略者の仲間など信頼できない」と面と向かって厳しい言葉を投げかける様子も映し出す。映像の最後では同じ想いで行動を共にするバーセルとユバルが笑顔で互いの顔を見る様子を捉えるが、そこに記された<一滴のしずくから、世界は変わる>というメッセージは、バーセルが本作の中で村人たちに諦めないことの大事さを呼びかけた際の言葉をベースにしている。
池松は、これまで作品本編にナレーションとして参加した経験はあるが、映画の予告編単体でナレーションを務めるのは本作が初となる。今回のナレーションに際して、「並外れた作品だと思いました。このような形でこの作品に賛同できることをとても光栄に思っています。異なるバックグラウンドを持つ4名の監督が親密に手を取り合い、同じ空の下の現実を伝えようと、ジャーナリズムへの献身と努力で世界に情報を伝えてくれました。決して他人事ではいられず、無関心ではいられませんでした。今作に出会えたことに感謝しています。 今この映画を、是非観ていただきたいです」とコメントを寄せている。
本作は、1月27日時点で11の観客賞をはじめすでに61もの賞を獲得しており、堂々のオスカーノミネートといえるが、世界各地での圧倒的な高評価とは裏腹に、アメリカ国内では政治的な事情から、劇場公開しようと手を挙げる配給会社が未だにない。そのため、本来であれば配給会社へ権利を販売する役割であるセールス会社が、みずから劇場に働きかけ1月末の公開を実現させるという異例の事態となっている。1月8日(現地時間)のニューヨーク映画批評家協会賞の受賞式では、作品賞を受賞した「ブルータリスト」のブラディ・コーベット監督がスピーチの締めくくりに「最後に言いたいことがあります。『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』を配給する時が来ました」と述べ、大きな話題を呼んだ。日本の公開はアジア最速となる。
「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」は、2025年2月21日からTOHOシネマズ シャンテ、シネ・リーブル池袋ほか全国公開。