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「ありふれた教室」で起こる学校版「サウルの息子」 7歳の少女視点で、過酷な学校生活を描く「Playground 校庭」予告

映画.com 2025年1月30日 15時0分

 第94回アカデミー賞国際長編映画賞のショートリストに選出された、学校での悪夢のような日常をサバイブする7歳の少女の葛藤や不安心理を描く「Playground 校庭」の予告編、本ビジュアル、場面写真11点が一挙に公開。あわせて、小島秀夫、河瀨直美、森達也からのコメントも披露された。

 大勢の子どもたちが教室で学び、休み時間に校庭を元気よく駆け回る学校は、みずみずしい生命力に満ち溢れた場所。しかし、小さな子どもの目を通してその日常を見つめると、多くの大人たちが抱くイメージは打ち砕かれる。本作は、どこにでもありそうな小学校の敷地内に舞台を限定し、主人公である7歳の少女の視点で全編を紡ぎ上げた、生粋の“学校”映画。その徹底された演出手法は、さながら没入型のスリラー映画のような並外れた緊迫感と臨場感を生み、子どもにとってあまりにも過酷な現実を生々しくあぶり出す。

 予告編では、小学1年生のノラが初めての学校に不安を抱くなか、3つ年上の兄・アベルが、大柄なガキ大将にいじめられている現場を目撃し、ショックを受ける。ノラは、大好きな優しい兄を助けたいと願うが、なぜかアベルは「関わるな、黙ってろ」と命じる。その後もイジメは繰り返され、一方的にやられっぱなしのアベルの気持ちが理解できないノラは、やり場のない寂しさと苦しみを募らせていく。ノラが「助けるとひどくなる」と呟き、子どもたちの声が唸りのように響き渡る、胸が締めつけられる仕上がりだ。

 ビジュアルは、「ここは私たちの世界(すべて)」というキャッチコピーとともに、ノラとアベルを活写。仲が良いはずの兄妹の間には少し距離が空いており、その表情は硬く、何が起こったのか、想像力を刺激する。

 1984年、ベルギー・ブリュッセル生まれのローラ・ワンデル監督が鮮烈な長編デビューを飾った本作は、第74回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に出品され、国際批評家連盟賞を受賞。さらにロンドン映画祭で新人監督賞に輝くなど、世界中で29の賞を獲得した(2024年11月時点)。大人には窺い知れない子どもの世界を、斬新なスタイルでとらえた映像世界が、高く評価されている。

 本編わずか72分のミニマルな物語は、初登校の日を迎えたノラが、アベルに抱かれて泣きじゃくっているファーストショットから、観客の目を釘付けにする。内気なノラにとって、見知らぬ子どもたちがあちこちで叫び声を上げ、無闇に走り回っている学校は、まさにカオスそのもの。未知なる混乱の真っ只中に投げ出された彼女は、どうやって友だちを見つけ、集団生活になじんでいくのか。しかも他者との関係を育む過程においては、同級生に残酷なことを言われたり、ふとしたことで仲間外れにされたりすることもある。

 「この作品の目的は、いじめの原因を追及することではない。誰かを非難することでもない」と語るワンデル監督は、社会の縮図でもある学校をあたかも戦場のように描き、そこでサバイブするためにはもう純真無垢ではいられない子どもたちの葛藤と恐怖、そして幾多の苦難の果てに変化、成長を遂げていく姿を映し出した。

 本編は、ドキュメンタリーと見まがうほどの迫真性に貫かれ、ビジュアルも音響も全てが緻密に構築されたフィクションだ。ワンデル監督はあらゆるショットを子どもの目の高さに設定し、被写界深度が極端に浅く、視野の狭い映像によって、観客にノラが見聞きすることを疑似体験させる。100%、ノラの視点で撮られているが、「親や先生といった大人が、子どもの目にどう映るか」という描写も盛り込まれ、多くの発見をもたらすサスペンスフルな1作に仕上がった。

 なお一切の無駄を削ぎ落としたシャープな作風が印象的なワンデル監督は、ベルギーの偉大なる先達であるダルデンヌ兄弟はもちろん、アッバス・キアロスタミ、ブリュノ・デュモン、ミヒャエル・ハネケ、シャンタル・アケルマンの作品にインスピレーションを得たという。ダルデンヌ兄弟が製作を務める次回作「In Adam’s Interest(原題)」にも注目が集まっている。

 ノラ役のマヤ・バンダービークは、キャスティングのセッションに参加した約100人の候補者から選ばれた。カリム・ルクルー(「またヴィンセントは襲われる」)がパパ役、ローラ・ファーリンデン(「ハッピーエンド」)が担任教師役を務めている。

 「Playground 校庭」は3月7日から、東京の新宿シネマカリテ、シネスイッチ銀座ほか全国で公開される。著名人のコメントは、以下の通り。

■小島秀夫(ゲームクリエイター)

 カメラは、いっときも少女から離れず、表情だけを追い続ける。観客は、彼女の内側に籠る孤立、孤独、苦しみ、哀しみを、最も近い距離で共有する。本作は「ありふれた教室」で起こる学校版「サウルの息子」だ。彼女の身の丈から覗く学校世界は、無垢でも平穏でもない。兄妹たちの“涙の抱擁”に始まり、最後は、また彼らの“涙の抱擁”で終わる。この涙の変遷。この痛みは、何なんだ。恐るべき映画だ。

■河瀨直美(映画作家)

 ハッとさせられる現実に胸が締め付けられる衝撃のラスト
 誰かをしっかり抱きしめて、そのぬくもりを感じていたくなる

■森達也(映画監督/作家)

 すごいものを観た。ただそれに尽きる。すごい映画じゃない。だって映画を逸脱している。震えた。一夜明けて余韻がまだ残っている。こんな体験は初めてかもしれない。

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