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高良健吾「生きることはかっこいい、そして美しい」

Entame Plex 2015年2月10日 10時45分

悼む……それは人の死を悲しみ、嘆くこと。
誰もが避けては通れない、死。その死に関して人はどう接するべきなのか。1人の青年のある行為を通して、改めて死、そして悼むことの意味を見つめ直し、触れたものの心を揺さぶる天童荒太の直木賞受賞作「悼む人」。
堤幸彦監督のもと完全映画化された今作で主演を務めたのは、俳優:高良健吾。坂築静人という、日々人の死を悼みながら旅をする、ときにまわりから異常と思われながらも真摯に死と向き合い続ける難しい役柄を演じきった彼は、はたしてこの役を通して何を思ったのか。繊細かつ壮絶な物語の中で高良健吾が感じた静人という人間像、そして本作が持つ意味を聞いた。

「亡くなった人のことを思い出す、ということはとても大切なことだと思います。そして、それは生きている人に対しても同じことが言えて、自分が忘れてしまっていたら、たとえ相手が生きていても自分の中にはないんです。ただ、それは思い出せば戻ってくる。それは亡くなった方も、生きている人も一緒なんですよね。静人がやっていることもそれと同じようなことで、しかも彼は命に差別していない、どんな命でも。被害者にしろ、加害者にしろ、命に線引きはなく、その命に対して彼は“覚えておきます、あなたが愛されたこと、感謝されたこと”という形で向き合っているんです」



――それは、なかなかできないことですよね。
「静人以外できないと思います。彼は(作品の中で)まわりから異常者と言われることもあるけれど、彼のその行為は異常ではないと思うんです。例えば、僕らも朝から子供が虐待で亡くなったニュースとかを見るとちょっと気持ちが落ちるし、どこか心の中で悼んでいると思うんです。それが他人であったとしても。ただ、彼の場合は自らその場所に足を運んで悼んでいる。それは、必ずしも褒められるものではなく、常に批判がつきまとう行為かもしれないけれど、僕は異常だとは思わないし、彼の生き方は否定してはいけないと思います」

――今回は静人が悼みながら各地をまわる一方で、物語としては別軸ですごく壮絶な話が進んでいますよね。それは静人を演じる上で何か影響しましたか?
「影響というよりは、僕はブレないということだけでした。確かに、別ラインの話を見ていると他の芝居もやりたくなります。でも、僕がそこでその(別ラインの)人たちに向かったり、あるいはカメラに向かったり、外に何かを発信しだしたら、僕はきっと静人が嫌いになると思うんです。彼がやっていることは全部自分に向かっていて、外には発していない。それはすごく意識していました」

――見ている側としては、その両軸が交わる中ですごく共感できる部分もあり、一方で不安になるというか、気持ちを揺さぶられました。
「なりますよね。でも、そういった中でも僕はブレずにいないと母の言葉も活きないんです。“あなたの目にはどう映りましたか”、その言葉が僕の中でも一番響いたので。だから、とにかくブレないことが重要でした」

――以前、今作の完成披露記者会見で“静人は運命的な役”と言っていましたが、それはどういった部分で?
「10代後半から20代前半にかけて、殺す、殺される、自分から命を捨てる、そういった役が多かったんです。プライベートでそういった状況になったわけではなく、(役者として)自らそこに足をつっこまないといけなかった。だから、人はどうして人を殺してしまうのか、どうして命を捨ててしまうのか、そういったことを常に考えていたんです。でも、僕はそれが本当にしんどくて、もう辞めたい、こんな役やりたくないと思ったときもある。『ソラニン』で死んで、翌日は『ノルウェイの森』で自殺する、2日連続で死んだりしたこともあった。だけど、いろいろな役を通じてもなお、死ぬことってわからないなと思ったんです」

――たとえ役だとしても、死ぬとなるとやっぱり気持ち的にはイヤなものですか?
「以前不思議なことがあって。25歳の誕生日の前日に死ぬシーンを撮る予定だったんですが、大雨で翌日に延期になり誕生日に死んだんです。そのときになんとなく“25年前に生まれて、今日役で死んでるな”と不思議な感じでした。しかも、その映画は『千年の愉楽』で、生まれて死んで、生まれて死んで、というのがテーマの作品だったんです。だから、役では死んだとしても“俺、また蘇るわ”と思って。そういった経験ができたことは大きかったと思います。誕生日に死ぬ役をやらないと絶対感じることのできない感覚ですしね。そういうのも何かの縁だと思うし、普段感じることのできない感情をもらえる。役者として死ぬことを演じるのも悪いことばかりではないなと思いました」



――でも、今回はそういった感覚とはまた違ったところに、死に対する様々な思いがありますよね。
「以前読んだ本に、人間は誰しも一度は死にたいと思うと書いてあったんです。それはすごくわかるし、でもそれを選ばないから人は美しいと思うんです。僕は静人が好きな理由として、彼は旅の1年目は死に向かい過ぎて辛かったんです。では、どうしたら辛くなくなるか、それは死んだ人が誰かに愛され、誰を愛して、誰に感謝されたかを覚えておくこと、それで静人は死に向き合えたと思う。彼は辛いことがあっても死を選ばなかった。誰でも必ず死にますけど、それまで生きることがかっこいいというか、美しいなと思います」

――今作で静人が行っていた旅を自分でもしてみたいと思います?
「できないです。ここまで本当にいろいろな人の心には寄り添えないですよね。心が壊れちゃうと思います」

――悼むことが除いたとしたら。ただの旅になってしまいますが。
「それはしたいですよ(笑)。でもなかなかできないですよね。静人の旅、彼の行為は、命に差別をしないすごいことだと思うし、それは愛だと思います。もしかしたらそれは歪んでいるのかもしれない。だけど、僕はとても澄んでいることだと思いたい。だから、僕は静人の一番の味方ですし、僕は彼のことを絶対に否定しない。命に差別がないということはすごく清いことだと思います」



――最後に、高良さんが今作を通して得たものとは?
「この作品を通ったことだと思います。それは出会ったことも含めて。これまで参加してきた作品も、1つとして同じ現場はなかった。役もそれぞれ違いましたけれど、静人をやった、演じたことが一番大きかったと思います」

映画「悼む人」は、2月14日(土)より全国公開。

© 2015「悼む人」製作委員会/天童荒太

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