「人間は絶対に現実に戻らないといけない……そのときに武器になるものを渡して、現実って素晴らしいし、楽しいよって伝えたい」(水野敬也)
唐沢寿明主演、福士蒼汰、黒谷友香らが出演し、スーツアクターという普段は一目に触れることのない存在の活躍を描いた映画「イン・ザ・ヒーロー」。昨年公開され、大きな話題となった本作がいよいよDVD、ブルーレイとなってリリース。そこで今作の脚本を手掛けた作家:水野敬也にインタビュー。これまで「夢をかなえるゾウ」をはじめ、数々の著書を手掛けてきた彼が今回初めて脚本を挑むことになった経緯、そして今作で伝えたかったこと、いろいろと話を聞いてみた。
「今回は尊敬するプロデューサー:李さんからいきなり電話がかかってきたんですよ。こんな作品やりたいんだけどって」
――そこで脚本の依頼が。突然のお話だったんですね。
「僕自身、今作のテーマになっているスーツアクターにこだわりはなかったんですけど、以前から裏方の存在というのが気になっていたんです。できて当然、ミスしたら怒られる。じゃ、いつ褒められるのって感じの仕事って結構多くて。それはなんとかしないといけない、その現状を伝えたいなって思っていたんです。今回スーツアクターのお話をいろいろお伺いして、そういった方々のメタファーとして物語が書けるんじゃないか、それは面白いと思って参加しました」
――今回は初の脚本仕事。作家の仕事とは全然違いますよね。
「違いますね。本は文字にした状態が最終形態ですけど、脚本は俳優さんが演じてこそのもの。しかも、演じる俳優によって変わる部分も大きいんですよ。だから、文字面では完成形が見れないし、撮影に関しても俳優さんのスケジュールなどもあるので、なかなか最終型がわからないんです。そうなると監督さんやプロデューサーの頭の中で描いているものという、ちょっとぼんやりしたキャッチーミットに向かって投げる必要があって。それは苦労した部分でもありますね」
――作家は自分の思いを貫くところ、脚本は様々な方の意向をふまえなければならない?
「本来であればそうなんですけど、ただ今回はある程度僕と李さんで進めていくことができたので、それはありがたかったです。僕らが面白ければいいって感じで、最終的には主演の唐沢さんにも喜んでいただけたので。でも、もっと面白くなる、もっとよくなるって延々書き直し、最終的には半年間修正し続けていた記憶があります(笑)」
――例えばアクションの部分などは脚本を書いている時点では完全に想像ですよね。それが実際の映像になったときはどんな気分でした?
「そこは完全に想像を超えていて、素直に感動しましたね。同時に、普通のセリフ1つとっても感動することもあり。それは作家には味わえない、おいしい部分でした。脚本家が思い描いている以上のものが見れる、そこは脚本家の醍醐味ですね」
――今作はこれまでの水野さんの作品とはちょっと違う、すごく熱気があるような気がしましたが。
「僕が日常書くものって、実用的な知識を入れようとするので、主人公のキャラクターは読者と等身大なんですよ。つまり、より共感できるものを選んでいるんです。ただ、映画となると主人公は共感できる部分もありつつ、同時に自分にはできないことをしてくれる、よりキャラクターを深める必要があったんです。主人公には特権というか特技があって、それによる欠点もある。1人の人間を描くにしても、その構成は違っていて、特に映画の場合は自分とは違う人、視聴者は非日常を味わいたいんですよね。その感覚を盛り込むことは、これまでとは全然違っていました」
――今作で特に思い入れのあるキャラクター、シーンは?
「唐沢さん演じる主人公の本城と、福士さん演じる一ノ瀬リョウが本当に素晴らしかったので、この2人のやりとりですね。特に本城は、基本的にはコミカルで笑いがとれるんですけど、シリアスなところではすごく変わる。人間って本来そういうものだと思うんですけど、実際にそれを演じるのは難しいと思うんです。僕はそこはどうすればいいのか、そして実際どうなるのか、当初わからなかったんですけど、完成した映像を見た時には本城という人間がそれを完全に両立させていいて。例えば、体育館でめちゃくちゃ熱く語った後に“おまえ、誰かのヒーローになれよ”って言うシーンも、僕の中ではすごくシリアスな感じだったんですけど、そこをちょっとコミカルに、緊張と緩和させている。それはスゴかったですね」
――水野さんは、本城みたいになりたいと思います?
「難しいですね(笑)。憧れる部分もあるし、生き様としてはかっこいいと思いますけど、死とギリギリのあの感じは正直ムリ。でも、実際のスーツアクターの方々はそれをやっているわけで……すごい仕事だと思います」
――脚本家として見る、今作の魅力とは?
「僕自身、実用書を書いてきているので、その要素は情報として様々な部分に詰め込んでいます。本編では、本城がそういったことを言ってたりするんですけど、それもあって人の生き方や考え方に吸収できる奥行きがある作品になったと思います。だから何度でも見れるし、見方によってそれが変わる。自分の生活に当てはまることはすごく多い作品になりました。もちろんエンターテインメント作品なので、普通に楽しんでもらえれば嬉しいですけど、そういった見方をしてもらえたら、また違った魅力があるのかなと思います」
――エンターテインメントだけど、実用的な作品でもあると。
「僕はそもそも中学時代はゲームとマンガで過ごし、現実で負けていたんですよ。エンターテインメントってそういう人たちを受け止めるものが多い。僕はずっと「ストリートファイター2」をやってて、校内では一番強かったんですけど、一歩外に出るとストリートファイトが弱い自分がいる。そんなとき、現実でも強くなれるゲームがあったらなって思って。そんなのあったら最高ですけど(笑)。でも、僕の本「夢をかなえるゾウ」もそれがテーマなんです。読み物としても面白いけど何か残したい。今作もエンターテインメント作品ですけど、できる限り現実でも使える何か残す、手土産を渡せるような作品になってるんじゃないかなって思います」
――現実で強くなるエンターテイメント?
「エンターテインメントは人を受け止めるけど、現実には弱くしていく構造になってると思うんです。ウソの世界を作り上げて、そこから出なくていいよと言ってるわけで。それが素晴らしい部分でもあるんですけど、やっぱり人間は絶対に現実に戻らないといけないんですよね。そのときに武器になるものを渡して、現実って素晴らしいし、楽しいよって伝えたい。現実に生きることこそエンターテインメントだよって言えるぐらいまで、人を持っていくことが理想です」
――脚本家の仕事は今後も続けていくんですか?
「実用知識を渡すにしても、それはそのまま出したところでみんな見向きもしてくれないんです。だから、そこにギャグや恋愛などをあえて加えてる。でないと読者から自尊心を奪うことになってしまうので、笑いや自虐を手段として選択しているんです。映画は誰が見ても美しいもので、消費者も多いですし、その分味は薄くなりますけど、今後もそれは試してみたいと思ってます」
――実際、水野さん自身はリアルで強くなってます?
「どうですかね……ただ、敵もどんどん強くなるんですよね。中学時代、お笑い四天王みたいな人たちがいたんですけど、今彼らと合コン行ったらきっと勝ちます(笑)。でも、お笑い芸人の方と飲み会に行くとやっぱり勝てないんですよ。で、どうすればいいのかと言えば、芸人さんにはしゃべらせておいて、最後に作家気取りで入っていくとか、いろいろ手段があると思うんですけど、そこで勝ったとしてもそれ以上に強い人がいる。実際、現実は大変です(笑)。でもそれがエンターテインメントでもあるんですよね、きっと」
唐沢寿明主演、福士蒼汰、黒谷友香らが出演し、スーツアクターという普段は一目に触れることのない存在の活躍を描いた映画「イン・ザ・ヒーロー」。昨年公開され、大きな話題となった本作がいよいよDVD、ブルーレイとなってリリース。そこで今作の脚本を手掛けた作家:水野敬也にインタビュー。これまで「夢をかなえるゾウ」をはじめ、数々の著書を手掛けてきた彼が今回初めて脚本を挑むことになった経緯、そして今作で伝えたかったこと、いろいろと話を聞いてみた。
「今回は尊敬するプロデューサー:李さんからいきなり電話がかかってきたんですよ。こんな作品やりたいんだけどって」
――そこで脚本の依頼が。突然のお話だったんですね。
「僕自身、今作のテーマになっているスーツアクターにこだわりはなかったんですけど、以前から裏方の存在というのが気になっていたんです。できて当然、ミスしたら怒られる。じゃ、いつ褒められるのって感じの仕事って結構多くて。それはなんとかしないといけない、その現状を伝えたいなって思っていたんです。今回スーツアクターのお話をいろいろお伺いして、そういった方々のメタファーとして物語が書けるんじゃないか、それは面白いと思って参加しました」
――今回は初の脚本仕事。作家の仕事とは全然違いますよね。
「違いますね。本は文字にした状態が最終形態ですけど、脚本は俳優さんが演じてこそのもの。しかも、演じる俳優によって変わる部分も大きいんですよ。だから、文字面では完成形が見れないし、撮影に関しても俳優さんのスケジュールなどもあるので、なかなか最終型がわからないんです。そうなると監督さんやプロデューサーの頭の中で描いているものという、ちょっとぼんやりしたキャッチーミットに向かって投げる必要があって。それは苦労した部分でもありますね」
――作家は自分の思いを貫くところ、脚本は様々な方の意向をふまえなければならない?
「本来であればそうなんですけど、ただ今回はある程度僕と李さんで進めていくことができたので、それはありがたかったです。僕らが面白ければいいって感じで、最終的には主演の唐沢さんにも喜んでいただけたので。でも、もっと面白くなる、もっとよくなるって延々書き直し、最終的には半年間修正し続けていた記憶があります(笑)」
――例えばアクションの部分などは脚本を書いている時点では完全に想像ですよね。それが実際の映像になったときはどんな気分でした?
「そこは完全に想像を超えていて、素直に感動しましたね。同時に、普通のセリフ1つとっても感動することもあり。それは作家には味わえない、おいしい部分でした。脚本家が思い描いている以上のものが見れる、そこは脚本家の醍醐味ですね」
――今作はこれまでの水野さんの作品とはちょっと違う、すごく熱気があるような気がしましたが。
「僕が日常書くものって、実用的な知識を入れようとするので、主人公のキャラクターは読者と等身大なんですよ。つまり、より共感できるものを選んでいるんです。ただ、映画となると主人公は共感できる部分もありつつ、同時に自分にはできないことをしてくれる、よりキャラクターを深める必要があったんです。主人公には特権というか特技があって、それによる欠点もある。1人の人間を描くにしても、その構成は違っていて、特に映画の場合は自分とは違う人、視聴者は非日常を味わいたいんですよね。その感覚を盛り込むことは、これまでとは全然違っていました」
――今作で特に思い入れのあるキャラクター、シーンは?
「唐沢さん演じる主人公の本城と、福士さん演じる一ノ瀬リョウが本当に素晴らしかったので、この2人のやりとりですね。特に本城は、基本的にはコミカルで笑いがとれるんですけど、シリアスなところではすごく変わる。人間って本来そういうものだと思うんですけど、実際にそれを演じるのは難しいと思うんです。僕はそこはどうすればいいのか、そして実際どうなるのか、当初わからなかったんですけど、完成した映像を見た時には本城という人間がそれを完全に両立させていいて。例えば、体育館でめちゃくちゃ熱く語った後に“おまえ、誰かのヒーローになれよ”って言うシーンも、僕の中ではすごくシリアスな感じだったんですけど、そこをちょっとコミカルに、緊張と緩和させている。それはスゴかったですね」
――水野さんは、本城みたいになりたいと思います?
「難しいですね(笑)。憧れる部分もあるし、生き様としてはかっこいいと思いますけど、死とギリギリのあの感じは正直ムリ。でも、実際のスーツアクターの方々はそれをやっているわけで……すごい仕事だと思います」
――脚本家として見る、今作の魅力とは?
「僕自身、実用書を書いてきているので、その要素は情報として様々な部分に詰め込んでいます。本編では、本城がそういったことを言ってたりするんですけど、それもあって人の生き方や考え方に吸収できる奥行きがある作品になったと思います。だから何度でも見れるし、見方によってそれが変わる。自分の生活に当てはまることはすごく多い作品になりました。もちろんエンターテインメント作品なので、普通に楽しんでもらえれば嬉しいですけど、そういった見方をしてもらえたら、また違った魅力があるのかなと思います」
――エンターテインメントだけど、実用的な作品でもあると。
「僕はそもそも中学時代はゲームとマンガで過ごし、現実で負けていたんですよ。エンターテインメントってそういう人たちを受け止めるものが多い。僕はずっと「ストリートファイター2」をやってて、校内では一番強かったんですけど、一歩外に出るとストリートファイトが弱い自分がいる。そんなとき、現実でも強くなれるゲームがあったらなって思って。そんなのあったら最高ですけど(笑)。でも、僕の本「夢をかなえるゾウ」もそれがテーマなんです。読み物としても面白いけど何か残したい。今作もエンターテインメント作品ですけど、できる限り現実でも使える何か残す、手土産を渡せるような作品になってるんじゃないかなって思います」
――現実で強くなるエンターテイメント?
「エンターテインメントは人を受け止めるけど、現実には弱くしていく構造になってると思うんです。ウソの世界を作り上げて、そこから出なくていいよと言ってるわけで。それが素晴らしい部分でもあるんですけど、やっぱり人間は絶対に現実に戻らないといけないんですよね。そのときに武器になるものを渡して、現実って素晴らしいし、楽しいよって伝えたい。現実に生きることこそエンターテインメントだよって言えるぐらいまで、人を持っていくことが理想です」
――脚本家の仕事は今後も続けていくんですか?
「実用知識を渡すにしても、それはそのまま出したところでみんな見向きもしてくれないんです。だから、そこにギャグや恋愛などをあえて加えてる。でないと読者から自尊心を奪うことになってしまうので、笑いや自虐を手段として選択しているんです。映画は誰が見ても美しいもので、消費者も多いですし、その分味は薄くなりますけど、今後もそれは試してみたいと思ってます」
――実際、水野さん自身はリアルで強くなってます?
「どうですかね……ただ、敵もどんどん強くなるんですよね。中学時代、お笑い四天王みたいな人たちがいたんですけど、今彼らと合コン行ったらきっと勝ちます(笑)。でも、お笑い芸人の方と飲み会に行くとやっぱり勝てないんですよ。で、どうすればいいのかと言えば、芸人さんにはしゃべらせておいて、最後に作家気取りで入っていくとか、いろいろ手段があると思うんですけど、そこで勝ったとしてもそれ以上に強い人がいる。実際、現実は大変です(笑)。でもそれがエンターテインメントでもあるんですよね、きっと」