震災から間もなく14年、福島第一原発の処理水の放出やデブリの試験的な取り出しなど、復興をめぐる環境が変化するなかで歩みを進める福島の漁業についてお伝えします。
福島の魚介類を海外に輸出しようと挑戦した、いわき市の漁業関係者を取材しました。
海を渡った常磐ものの評判は?そして、商談の行方は?密着取材です。
福島県いわき市の中央卸売市場。
■いわき魚類・鈴木健寿さん
「これは“常磐もの”で、いわきの目の前で取れているヒラメとイセエビ」
見学する親子にこう話すのは、地元の水産物卸売「いわき魚類」の鈴木健寿さん(45)です。
■いわき魚類・鈴木健寿さん
「常磐ものの魚は、特に活魚関係は築地時代から評価が高い。良い魚がとれる場所」
この福島の漁業をめぐり、2023年に大きな動きがありました。
福島第一原発の「処理水」の放出です。
県産の水産物を応援する機運が高まり、県内では価格への影響もほとんどみられませんでした。
ところが、鈴木さんは…
■いわき魚類・鈴木健寿さん
「応援があるからいいということは無くて、応援してもらっているうちに、自立して自分で日常的に進める状態にしなきゃいけないと思う」
震災と原発事故で打撃を受けた福島の漁業、県内の漁獲量は、震災前の2割ほどと、復興は道半ばです。
9月、鈴木さんがある思いを胸に向かった場所が、いわき市内のかまぼこ店です。
かつて年末の風物詩だったかまぼこ作りは長い間、地元の水産業を支えてきましたが、担い手不足などで徐々に縮小。
こうした伝統的な加工品を守り、福島の漁業を未来へつなげていくために考えたことが…
“常磐もの”を海外に売り込もうというのです。
■いわき魚類・鈴木健寿さん
「ハブ機能を持っている私たちだから挑戦できるということで海外まで挑戦したいと思っている」
鈴木さんは、国の補助金を活用し、シンガポールで開かれる日本食の展示会に地元の加工品などを出品。
かまぼこやタコ、メヒカリなどを輸出し、福島への信頼を得ることで、常磐ものの販路開拓を目指すことに決めました。
■いわき魚類・鈴木健寿さん
「何が強みとか歴史だろう?」
■かねいし商店・山野辺正哉さん
「弊社はタコを炊き始めて60年。しっかりもんでしっかり蒸すっていうのを徹底している。」
展示会まで2週間あまり。
常磐ものが、いよいよ海を渡ろうとしていました。
■いわき魚類・鈴木健寿さん
「自分らがうまいと思っているんで、うまいという人はいると思う。絶対ゼロでは帰ってこない。なにかしら成立させる。」
福島のプライドを胸に、いざシンガポールへ。
10月、ASEAN最大級の日本食の展示会「FOOD JAPAN2024」が始まりました。
鈴木さんも、この日のために練習してきた英語で積極的にPR。
そして、試食してもらうのは、かまぼこです。そのお味は?
■女性2人組
左「おいしい、おいしい」
女「テイストイズグッド & ベリージューシー チーズインサイド ナイス」
こちらはレストランでシェフをしている日本人男性。
■「これって本物のカニを使っている?(いわき魚類社員・そう、本ズワイガニ)美味しかった、触感も良かった」
一方で、処理水について、現地の受け止めを尋ねると…
■日本人シェフ
「聞かれる、僕もシェフなので、日本食を扱っているので大丈夫なの?とかっと。説明をして問題ないよ、と。それでも多少みんな警戒するんですけど、常連客は来てくれる。本当に2か月くらいかな、何も言わなくなってきた」
「おいしいもの」が純粋に評価されるといわれるシンガポール、挑戦にはぴったりの場所です。
ただ、今回の最大の目標は販路の開拓。大事な商談が待っていました。
やってきたのは、日本でもおなじみの総合スーパー「ドン・キホーテ」の現地の担当者たちです。
鈴木さんたちや関係者の働きかけで実現しました。反応は悪くありません。
はじめての挑戦で地元の加工品、そして常磐ものに手応えを感じた鈴木さん。
■いわき魚類・鈴木健寿さん
「実際の皆さんの反応を見ているとおいしい、おいしいと、反応が良かった。地元や国内、海外も視野に入れて胸をはって福島県ものを売っていきたい」
11月、シンガポールから戻った鈴木さんに、ある知らせが…
■いわき魚類・鈴木健寿さん
「この間の展示会に行って、商談して決まった注文が、今入ってきた。これが店の名前なんですけど、ここに何ケースっていう形で。」
なんと商談成立!
おいしさが評価されて、かまぼこやタコなどがシンガポールで販売されることになりました。
■いわき魚類・鈴木健寿さん
「こんなに早く来ると思わなかった、あとはこれが継続的に向こうに確実に受け入れられて、リピートして注文をもらえるかがポイントだと思う」
鈴木さん、喜んでばかりはいられない、と次を見据えます。
この一週間後。
シンガポールのドン・キホーテには…かまぼこやイセエビ、タコにヒラメ…干物にメヒカリと、福島の加工品が売り場に並びました。
そこには鈴木さんの姿も!取り引きの継続につなげたいと、フォローのために再び訪れることを決めていたんです。
海を渡った常磐もの。現地の仕入れ担当者は?
■ドン・キホーテの仕入れ担当者
「たくさんの人たちがエビやかまぼこが大好きで、これはスモーキーで新しい味で良い。メヒカリはシンガポールでも初めてで、シンガポールの人たちに紹介したい。シンガポールの人たちも福島の製品のことをもっと理解できると思う。季節の魚でおいしい。」
■いわき魚類・鈴木健寿さん
「嬉しい。福島の生魚をちゃんと福島産って言って売ってくれるって感動する。」
その後も鈴木さんたちはドン・キホーテ系列の寿司店とこの先の輸出に向けて、ボタンエビやタチウオなど鮮魚の商談が実現。
常磐ものが海を渡り、おいしさを知られることで、福島の漁業がますます元気になって欲しい。
鈴木さんたちはこれからもその魅力を伝え続けます。
■いわき魚類・鈴木健寿さん
「はじめて福島のものをメインに今回持ってきましたけど、普通に受け入れてくれて。ものがいいとか悪いとか実際の商談ベースで話ができた。スタートを切ったというゼロからイチに動き出したようなそんな感覚」
震災から間もなく14年、福島の漁業を守り、未来につないでいくために、挑戦が続いています。
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