今、歴史的な円安の影響でインバウンドが急増し、オーバーツーリズムが社会問題になっています。有効な対策とされているのは、都心や有名観光地に集中する外国人観光客の地方分散。そのために地方の積極的なPRが求められています。
しかし、日本人がいくら頑張っても、外国人観光客のクチコミパワーにはかないません。それを裏付けるように今、外国人インフルエンサーの影響を受けて、多くの外国人観光客が、兵庫県の静かな山間部に位置する福崎町を訪れています。
彼らのお目当ては、インフルエンサーが絶賛した、世界でも珍しい妖怪たち。福崎町にはユニークな妖怪たちがたくさん住んでいるのです。たとえば、ベンチに座って化粧している妖怪、スマホで自撮りする妖怪、顔を真っ赤にしてパソコンで仕事する天狗、さらには池から飛び出す妖怪や、小屋から飛び出してくる妖怪もいて、外国人観光客は「アメイジング!」や「オーマイガッ!」が止まりません。
実はこの妖怪たち、およそ10年前に、民俗学の父として知られる故・柳田國男氏を偲んで設置されました。柳田氏は福崎町の出身で、名著『遠野物語』などに人々と共存する妖怪を描きました。福崎町はそんな妖怪たちを故郷に生かすことで、町の活性化に取り組んでいるのです。
なかでも、柳田氏の回顧録『故郷七十年』に登場する河童ガタロの弟として、この町に誕生した妖怪「ガジロウ」は、非公式キャラクターにも関わらず大活躍。町なかで観光客を楽しませるだけでなく、プラモデルやTシャツ、ご当地グルメのパッケージにも登場して町をPRしています。
おかげで昨年、福崎町を訪れる観光客は10年前の約3倍に増え、以前はほとんど見かけなかった外国人観光客も珍しくなくなりました。
そこで福崎町は、この機運を逃すまいと今年6月、JR福崎駅(播但線)近くの観光案内所の壁面に「妖怪トリックアート」を設置。駅を降りると、ガジロウなど福崎町の妖怪たちが大迫力で出迎える設定で、さっそく観光客の人気を集めています。
さらに来年は柳田氏の生誕150年。奇しくも「大阪・関西万博」と重なり、関西では、さらに外国人観光客が増えると見込まれています。福崎町にも多くの外国人が押し寄せるでしょう。これも柳田氏が「零落した神々のすがた」と例えた妖怪たちの〝神通力〟かもしれませんね。 (地域ブランド戦略家・殿村美樹)