日本を代表するものづくりの町、東大阪には約5000社の製造業が集積し、事業所密度では全国一を誇る。技術力の高さで世界的に知られる企業も多いが、近年は地価高騰や後継者難で事業所数がピーク時より半減。厳しい中でも地域の強みを発信し、かつての活気を取り戻そうとしている。
創業から77年、東大阪に拠点を移して60年。菓子缶製造を主力とする大阪製罐の3代目社長、清水雄一郎氏も地元活性化への思いは強い。神戸の有名洋菓子メーカーと取引し、最近ではデザイン性の高い缶の販売サイト「お菓子のミカタ」で全国に販売先を拡大。缶の売上高はコロナ前と比べて130%と伸びているという。
4年前には新工場の設立に着手。これまで廃材置き場だった場所を活用し、誰でもアートに触れられる空間を作ることをめざした。タッグを組んだのは、国内外で話題を集めるデジタルアート集団チームラボだ。
清水社長は「利益追求と生産性向上だけでなく、未来に向けてわれわれがすべきことを考え、閉鎖的でない工場を建てました。チームラボの協力により実現した庭とカフェとアート作品を組み合わせた空間は社員からも好評。アートに触れる機会の少なかった人でもモノの見方や考え方が変わるきっかけになるかもしれません」と話す。
10月5日、製缶工場の隣に開業したのは、チームラボが手がけた「風と雨と太陽の草原」と「カンカン工場の草原のカフェ」。工場の敷地の一部を壊して作られた空き地を草むらのような草原にし、風や雨、太陽などの自然環境がそこで生み出す現象を作品にした。
太陽が高く昇ると直径4~5メートルの巨大な真円が現れ、風が吹くと上空に25メートルくらいの龍のような書が舞い続ける。夜に強く雨が降ると、雨は無数の光の結晶となり、線を描いて消えていく。太陽がガラスに映り込み、輝いて見える太陽の海という作品も。テーマは、チームラボが提唱するコンセプト「環境現象」。「環境によって現象が生まれ、現象そのもので作品の存在が作られる」と、チームラボの猪子寿之代表は説明する。
作品を楽しめるのはカフェ利用者のみ。カフェでは兵庫・武庫之荘の人気パティスリー「リビエール」の西剛紀シェフが監修したスイーツが提供される。季節のおいしいケーキを味わえるほか、夜の時間帯には、茶同士が共鳴し、固有のリズムで明滅するSNS映え間違いなしのお茶も体験できる。幻想的な光景を眺めながらのカフェタイムは、五感が刺激されて普段は経験できない格別なひとときになりそう。
清水社長は「ココを目指していろんな人に来てもらいたい。海外からも来るようになれば、街も変わるはず」と期待を込める。 (フリーライター・橋長初代)