★絶品必食編
牛込には不思議な店がある。店内には炭火が熾きていて焼き鳥も出すが焼き鳥店ではない。
鶏料理店ではあるが、同時に食鳥処理衛生管理者(店主)を擁する、認可食鳥処理施設でもある。だから店内にはときどき「バキッ」という音が響く。
東京・牛込柳町にある「食鳥 伍の捌(はち)」。今年2月にオープンした気鋭の鶏料理店だ。「気鋭の鶏料理店」と原稿で書くのは初めてかもしれない。それくらい鶏料理店として取り組みに気が入っているのだ。
まずは仕入れだ。この店では毎日、前日に締めて放血と脱羽だけされた数羽の内臓つき地鶏の丸屠体が届く。そもそもこうした仕入れをする店自体がほとんどない(というか、こうした取引に応じる養鶏農家がほとんどいない)。
届いた内臓つきの丸屠体を店主自ら営業前に解体する。まず首と足首を落とし、気管や肺などを取り出し、次に内臓をていねいに取り出していく。
この作業のために店主は食鳥処理衛生管理者の免許を取得した。店舗の設計も、食鳥処理施設の認可が取れるよう、店内に解体用のスペース(生食用牛肉を出す料理店での生食肉専用調理室のような区分けされた部屋)を用意した。
この仕込み時点での包丁使いは最小限。内臓は抜いて部位ごとに整理するが、中抜きした丸鶏は解体しない。それは肉を「酸化させないため」だ。
食肉は包丁を入れたところから空気に触れ、酸化していく。とりわけ足が早く、味わいの繊細な鶏肉は酸化を避けたい。そう店主の岩越幸生さんは考えている。
最低限の仕込みだけ終えた丸鶏は、営業を迎え、その日のコースに必要な部位を調理直前に切り出す。事前に切り出したり、串打ちしたりもしない。
店主は和食をはじめ、現在の業態に近い鶏料理店など20年以上のキャリアを経て独立。時間をかけて目指す調理ができる環境を手に入れた。
最近、他店の店休日には焼き鳥店などの同業者がカウンターに鈴なりになる。誰もが新しい鶏料理の地平に興味津々だ。
単品では注文できない品も含むコースにするか、20時以降好きに注文できるアラカルトにするか。ああ、今日も悩ましい。
■松浦達也(まつうら・たつや) 編集者/ライター。レシピから外食まで肉事情に詳しい。新著「教養としての『焼肉』大全」(扶桑社刊)発売中。「東京最高のレストラン」(ぴあ刊)審査員。