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日本の解き方 「財政収支黒字化」の重大問題 政府投資や名目GDP低迷、間違った抑制策と異様に高い「社会的割引率」が主な要因に

zakzak by夕刊フジ 2024年8月6日 11時0分

政府は、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)が2025年度に初めて黒字になるとの試算をまとめた。

これに関連して、高市早苗経済安保相が興味深いことを言っている。7月23日配信のネット番組「虎ノ門ニュース」で、このPB黒字化目標が6月に閣議決定した経済財政運営の指針「骨太の方針」に3年ぶりに明記されたことについて「すごく残念だった」と述べた。

まず強調しておきたいのは、今のPBは正しくない。政府の一部だけを取り出してPBを計算しているからだ。真の政府の財政状況を示したければ、統合政府のバランスシート(貸借対照表)を見るべきだ。

「統合政府のPB」をきちんと計算すれば、とっくに黒字化している。国際通貨基金(IMF)のデータによる統合政府でみれば、日本の財政状況は先進7カ国(G7)の中でカナダに次いで2位の健全度である。

百歩譲って今のPBでも、その動向を左右するのは、ほとんど名目国内総生産(GDP)成長率だ。歳出削減の努力などを強調する報道もあるが、当年と1年前のGDP成長率で今のPBの動きはほとんど説明できる。であれば、歳出削減より名目GDPを増やした方が、はるかに財政健全化に寄与する。

では、なぜ名目GDPが増えないのか。筆者の分析では、①日本のマネーの伸びが少なかったこと②日本の公共投資が少なすぎたこと―の2つが原因だ。

まず①については、1980年代、1990~2000年代、2010年代と3つの時代ごとに、マネーの伸び率と名目GDPの伸び率を世界各国で調べたものをみれば明らかだ。

1980年代には、日本はそこそこマネーを伸ばして名目経済成長をしていたが、90~2000年代は最悪で、その後10年代以降にやや盛り返してきた。しかし、1990~2000年代の落ち込みから脱却するには至っていない。

次に②について、G7の公共投資の推移をみると、1991年を1とすれば、2023年には英国が4・4、カナダが4・2、米国が3・4、フランスが2・3、ドイツが2・2、イタリアが2・1であるにもかかわらず、日本だけが減少して0・9と異様に低い値だった。

実は政府投資は、各国の名目GDPと大いに相関が高い。政府投資は政策的に動かせるので、この高い相関は因果関係を示唆する。しかし、G7諸国の中で、日本だけが相関関係がないのがまったく不可解だ。

政府投資は民間投資との相関も高い。これは日本もG7も同じである。ということは、日本の低い政府投資は名目GDPの伸びを阻んだだけではなく、民間投資にも悪い影響を与えた。結果として日本だけ民間投資、名目GDPが伸びなかった。

なぜ日本で政府投資が伸びなったのだろうか。筆者の見るところ、公共投資の費用と便益を分析する際に使う「社会的割引率」(将来価値を現在価値に割り引く比率)が「4%」と異様に高い水準であることと、PBの黒字化という間違った財政抑制策の結果だ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

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