圧倒的な演技力で、ドラマや映画に舞台と見る者を魅了する。最近ではドラマ「海のはじまり」(フジテレビ系)でも注目された。大切な娘が残した子供をなんとしても守り抜きたいと願う祖母役で、子供の存在を知らなかった父親に厳しい言葉をぶつける難役だ。
「こんなひどいこと、普通言わないでしょって思うこともありましたが、脚本家の方やプロデューサーや演出の方と話し合って、基本的には台本通りに言いました」
意地悪な言葉を言いながらも表情など端々に優しさが感じられる演技は、最終回の「娘が自分より先に死ぬことを想像して。私たちは娘の遺影の写真を選んだの」といったせりふに凝縮され、涙を誘った。そんな彼女を支えたのは、孫の海役を演じた泉谷星奈(いずたに・らな、7)だったとにこやかに明かす。
「私が娘の遺骨の前で泣くシーンがあり、星奈ちゃんが『大竹さんのほんとの子供が死んじゃったみたいで、ほんとに星奈はびっくりして』って褒めてくれて。すごく勇気と自信になりました」
次なる演技の場は、東京・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAで11月1日に初日を迎える主演舞台「太鼓たたいて笛ふいて」。10年ぶり5度目の公演となる井上ひさしの名作音楽評伝劇で、「放浪記」などの作家、林芙美子の戦前・戦中・戦後を描き、戦争に真っ向から向き合った生涯を演じる。
今こそやる意義
「22年前の初演のときに、毎日毎日、この芝居ができる喜びや、やる意味を感じていました。井上さんの言葉を伝える使命みたいなのものも感じましたし、今の世界情勢なども踏まえて、こういうときだからこそ、これをやれることが、すごく意味があることだと思います」
演出を担当する栗山民也(71)とは何度となくタッグを組んできたが、井上作品とは縁が深い万全のコンビだ。
「私が25歳くらいのとき、井上先生の『もとの黙阿弥』(1983年)で、演出助手をされていたのが栗山さんでした。演出家として出会ったのは『太鼓たたいて―』が最初なんです。前回やって、またやりたいねって栗山さんとはいつも話していました」
舞台の芙美子の最後のせりふ「休んでいるひまはないんだわ。書かなくては、書かなくてはね」に、井上を重ねる。
「そうやって生きていらっしゃったんだなって。ほんとに命を削って言葉を紡ぎ出して。日本に世界に社会に、声高に物申すのではなく、優しい言葉で、でも、間違っていることは間違っているんだと言ってきた」
キャストはほぼ固定されていたが、大竹とピアニスト役の朴勝哲以外の5人が変更になり、新たな息吹が注がれた。
「今までのキャストの声の高さや、どういう芝居をするかが記憶に残っていたので、そこが全部取っ払われて、また新しい気持ちになりました」
舞台とバランスよく映像作品もやりたいと切実に言うが、「大きな笑い声など観客の反応で役者は調子に乗って、いくらでも成長できる」と、舞台の話になると、少女のように目を輝かせる。
すてきな人との 出会いが楽しい
「舞台は何回もできますし、お稽古も1カ月以上できて、楽しい遊びみたいな感じ。『これをこうやったらこうなるかもね』『いや、ちょっと待って、これをこうしたらこうなるんじゃない』『じゃあここに向かって頑張ろう』って、みんなで一緒に素晴らしいものを作り上げるっていう面白さは、やっぱり舞台じゃないと味わえない」
デビュー映画「青春の門」(75年)では吉永小百合、仲代達矢、小林旭ら大スターと共演。前述の「もとの黙阿弥」では片岡仁左衛門(当時・孝夫)や水谷八重子(当時・良重)ら歌舞伎や新派の名優と舞台に立ってきたが、気後れせず楽しんでいるという。
「すてきな人やすごい人に出会うのは、楽しいですよ。いい監督とか、いい役者さんとか。そばにいて話したいと思うほうなので気後れなく話してました。舞台が始まる5分前も、緊張せず楽しんでます」
たくさん人と出会い、一緒に芝居を作り上げ、今また新たなチームを迎えた。観客も〝一役〟担ったワクワクする舞台は間もなく幕が上がる。
■大竹しのぶ(おおたけ・しのぶ) 女優・歌手。1957年7月17日生まれ、67歳。東京都出身。75年に映画「青春の門―筑豊編―」で本格デビュー。同年、NHK連続テレビ小説「水色の時」のヒロインに抜擢(ばってき)されて注目される。2011年に紫綬褒章を受章。近年の出演作に舞台「ピアフ」(11年初演)、「スウィーニー・トッド」(24年)、映画「ヘルドッグス」(22年)、ドラマ「海のはじまり」(24年、フジテレビ系)など。
主演舞台「太鼓たたいて笛ふいて」東京・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて11月1日初日
大阪、福岡、名古屋、山形へ巡回
井上ひさし生誕90年、こまつ座第152回公演「太鼓たたいて笛ふいて」は、11月1~30日=東京・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA▷12月4~8日=大阪・新歌舞伎座▷同14、15日=福岡・キャナルシティ劇場▷同21、22日=名古屋・ウインクあいち▷同25日=山形・やまぎん県民ホール。
【東京公演「読者割引」あり】
問い合わせ:こまつ座 03・3862・5941
(ペン・佐藤栄二/カメラ・福岡諒祠)