自民、公明、国民民主3党の政調会長は20日、週内に閣議決定する経済対策に、年収103万円を超えると所得税が生じる「103万円の壁」引き上げを明記することで合意した。「国民の懐を豊かにする」制度改革への期待が高まるが、国民民主党の玉木雄一郎代表は先日、総務省が地方自治体に「税収減の懸念」を表明させようと〝工作〟をしていたと暴露した。このほか、社会保険料負担が発生する「106万円の壁」撤廃や、扶養控除の縮小、所得税控除額や住民税控除額の引き下げといった「ステルス増税」も警戒されている。基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化に固執する最強省庁・財務省の動き。南米歴訪で世界に醜態をさらした石破茂首相は、国民生活を守る気があるのか。
「ついに『壁』が動きました。皆さんの1票が30年動かなかった壁を動かしました。でもまだ数センチ。勝負はこれから。後押しお願いします」
玉木氏は20日午後、自公国3党が「103万円の壁」引き上げの方針を政府の経済対策に明記することで合意したことを受け、自身のX(旧ツイッター)に、合意文書の画像とともに、こう書き込んだ。
この方針は、自民党の小野寺五典氏と、公明党の岡本三成氏、国民民主党の浜口誠氏の3党政調会長会談で合意した。壁の引き上げは、「ガソリン減税の検討」と合わせて経済対策に明記される見通しで、その裏付けとなる2024年度補正予算案の早期成立を図ることも確認した。
経済対策で打ち出す具体策はどうなるのか。
103万円の壁については「税制改正の中で議論し引き上げる」とし、ガソリン減税は「いわゆる暫定税率廃止を含め、自動車関係諸税全体の見直しに向けて検討し、結論を得る」との言い回しだ。
いずれも、国民民主党の要望に沿うかたちで原案を修正したというが、最大の焦点は、国民民主党が最重点項目として主張する「所得税非課税枠を現行の103万円から178万円へ引き上げる」との提言をたたき台に、引き上げがどの程度、実現されるかだ。
浜口氏は「手取りを増やす経済対策に向けて大きな一歩を踏み出せる内容」とし、この実行を条件に補正予算案に賛成する方針を示した。
小野寺氏も、自公与党が過半数割れの現状を指摘したうえで、「今回の議論は、より丁寧に野党と協議するひな型だ」と評価している。
焦点の「引き上げ幅」は、年末の25年度税制改正で決着を図る。3党の税調会長による税制改正協議初会合でも、国民民主党が178万円への引き上げなどを議論の中心とすることを強く求めた。「減税派」と「増税・高負担路線派」による駆け引きは激化しそうだ。
現に、政府は178万円への引き上げにより「国・地方で7兆~8兆円の減収が見込まれる」と主張している。
玉木氏は、総務省がこの主張に沿って、地方自治体に反対表明を求めるなどの「工作を行っている」と激怒している。石破首相の盟友である村上誠一郎総務相が知事サイドに連絡を回し、撤廃の問題点を指摘する「発言要領」まで作っているとも指摘した。
村上氏はこれを否定しているが、政府の陰謀を感じさせる話だけに大きな波紋を呼んでいる。ちなみに、村上氏は、安倍晋三元首相を「国賊」と罵倒した人物である。
実際、地方自治体は政府の主張する減収懸念に呼応し、相次いで反対を表明した。宮城県の村井嘉浩知事は「減収が地方に回ると大きく住民サービスが下がる」「私が総理大臣なら首を縦に振らない。たちどころに財政破綻する」などと、国民民主党の提言を厳しく批判している。
ある与党議員は「プライマリーバランスの黒字化に固執する財務省は『税収減』の試算を根拠に抵抗していくのではないか。一方で少数与党の石破政権は、世論の声を受けた国民民主党の提言を無視できない。石破首相は板挟みとなり、方向性は右往左往するだろう」と指摘する。
「違った形で増税や負担増しないよう見張って」荻原博子氏
今後の展開をどう見るか。
経済ジャーナリストの荻原博子氏は「実質賃金は下がる一方、国民の命に直結する食料品は値上げが続き、消費は冷え込んでいる。国民民主党が議席を伸ばしたことがすべてを物語っているといえる。『178万円への引き上げ』は多くの有権者が望む『最低ライン』だ。国民民主党は、与党が違った形での増税や負担増をしないよう見張り、『第2自民党』といわれない野党の矜持(きょうじ)を示してほしい」と語った。
石破政権からは、「手取りを増やす」政策に逆行する動きも出てきた。
厚労省は、会社員に扶養されるパートら短時間労働者が厚生年金に加入する年収要件「106万円の壁」を撤廃する方向で最終調整に入った。年収要件をなくせば保険料負担が新たに生じ、手取り収入が減る人も出てくる。
このほか、各種控除の撤廃・引き下げも指摘されている。
早稲田大学公共政策研究所招聘研究員の渡瀬裕哉氏も「103万円の壁」を打ち消す〝ステルス増税〟などを警戒し、次のように語る。
「閣僚やメディアから『税収減』や『財源論争』が出ているが、年収の壁の引き上げを、他の『増税・負担増』で骨抜きにしようとするかもしれない。国民民主党は、過去にガソリン税を一部軽減する『トリガー条項』凍結解除をめぐり、自公与党との協議に持ち込みながら解除に至らなかった。ただ、当時とは異なり、先の衆院選で議席を4倍に増やしており、非常に強い立場にある。国民民主党はギリギリまで突っぱねる姿勢が必要だが、補正予算に容易に協力する姿勢をみると、交渉がぬるい」