兵庫県知事選をきっかけにして、テレビ、新聞など旧来メディアと、X(旧ツイッター)やユーチューブなどSNSとの対比が話題になっている。簡単にいうと、斎藤元彦知事の返り咲きは、「SNSの民意」が大きく左右したというものだ。
事前の旧来メディアの報道は、斎藤氏へのパワハラ疑惑を断罪的に報じるものが多かった。また対立候補の稲村和美氏の優位を終盤まで伝えていた。
だが、結果は斎藤氏が11万票もの差をつけての再選だった。選挙戦では、SNSを中心にして旧来メディアが報じないさまざまな「事実」の指摘が相次いだ。総務省の最新の調査でも、SNSの利用者は10代から30代の男女で極めて多い。この層がどれだけ斎藤氏に投票したのかは現段階では不明だ。ただNHKの出口調査では、SNSや動画サイトを知事選の情報収集で利用した人の数は、旧来メディアを利用した割合よりも多かった。そしてSNSや動画サイトの利用者の多くが斎藤氏に投票したことがわかっている。
似たような現象は、「年収の壁」の見直しで与党と交渉している国民民主党の躍進にもいえる。最新の朝日新聞の世論調査では、やはりSNSの利用が多い20代から30代の年齢層で、国民民主党は上位の支持率を獲得している。この「SNSの民意」は、国民民主党の政策への「応援」と、また他方での石破茂政権への「批判」の声に結びついている。
石破首相の南米訪問は、SNSではさんざんな評価だった。「日本の恥」とまで表現されるほど、石破首相の「マナー」違反がやり玉にあがっていた。ブラジル・リオデジャネイロでの20カ国・地域(G20)首脳会議の場で、よれたネクタイをしたわが国の首相の映像をみるのはつらいものがある。注意する日本側のスタッフがいなかったのも情けない。
ただ、石破首相への批判は身だしなみだけではない。SNSでは、石破政権の政策にも厳しい批判が寄せられている。特に、まるで財務省の出先機関のように、税制そのものをいじることを拒否するその姿勢である。自公政権と国民民主党は、3党合意で「年収の壁」の見直しという減税政策への道筋を示した。だが、石破政権が減税政策を最終的には前言撤回し、また骨抜きにするのではないか、という見方がSNSでは根強いようだ。
石破政権は、衆院選の得票でもわかるように、特にSNSを利用する若年層や都市部での支持が弱い。たしかにSNSには虚偽の情報や「炎上商法」に近い現象も多い。他方で、望ましい政策の方向を知るきっかけにもなる。この民意の動きを、石破政権は見ていないだろう。新しい民意の動きを逃す政治勢力におそらく明日はない。 (上武大学教授・田中秀臣)