邦人4万人超
韓国が大混乱状態に陥った。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は3日深夜、最大野党「共に民主党」が国政や司法をマヒさせているとして、「非常戒厳」を突然宣言した。陸軍大将を司令官とする戒厳司令部は一切の政治活動を禁じる布告令を発表した。これに対し、国会(定数300)は4日未明、戒厳司令部兵士らの規制を突破して本会議場に集まった与野党議員190人全員の賛成で「解除要求」決議を可決。尹氏は宣言から6時間後に解除を表明した。1987年の民主化後初となる戒厳令を強行した尹氏に、野党は即刻退陣を要求し、「大統領弾劾」も準備している。「日韓融和」を進めてきた尹氏が失脚した場合、再び「反日」勢力が息を吹き返しそうだ。韓国には4万人以上の邦人が暮らしているが、大丈夫なのか。
わずか6時間で解除
「反国家勢力を一挙に清算し、自由憲政秩序を守るために非常戒厳を宣布する」
尹氏は3日午後10時半ごろ、こう述べ、戒厳司令部を設置した。
「非常戒厳」は戦時などの非常事態に大統領が宣言し、市民の権利を制限できるとされている。これまで1964年の日韓国交正常化交渉反対デモの際や、79年の朴正煕(パク・チョンヒ)大統領暗殺の際などに出されていたが、87年の民主化後は初めてとなる異常事態だ。
戒厳司令部は、布告令で「国会や地方議会、政党の活動と、政治的結社、集会、デモなど一切の政治活動を禁じる」などと打ち出した。韓国メディアでは、尹政権が国会議員の逮捕に乗り出す可能性があると報じられ、出入りが統制された国会上空をヘリコプターが飛び交うなど緊迫した状況が続いた。
これに対し、国会は4日午前1時ごろ、本会議場に集まった与野党議員190人全員の賛成で解除要求決議を可決した。各党はその後、尹氏を批判する談話を発表した。非常戒厳宣言の理由とされた「共に民主党」だけでなく、保守系与党「国民の力」の韓東勲(ハン・ドンフン)代表までも「宣布は間違っている」として、反対の立場を示した。
結局、尹氏は同日午前4時半ごろ、「戒厳を解除する」と発表し、国会などに展開していた「軍を撤収させた」とも説明した。わずか6時間の騒動だった。
尹氏をめぐっては、妻の金建希(キム・ゴンヒ)氏の不正疑惑が以前からくすぶり、最近では尹氏の関与も疑われる政治ブローカーとの不正な関係の疑惑が浮上していた。
「韓国ギャラップ」が11月末に発表した世論調査では、尹氏の支持率はわずか19%だった。国会でも野党が半数を大きく超えるなか、厳しい政権運営を強いられていた。尹氏が事態打開を狙って非常戒厳の宣布という強硬手段に踏み切ったとみる報道もあるが、裏には何があったのか。
室谷克実氏「尹氏の〝ご乱心〟か、夫人のスキャンダル絡みか」
韓国事情に精通するジャーナリストの室谷克実氏は「現時点では、国家情報院(韓国の情報機関)が絡んでいるとの情報もなく、真相はまだ分からない。与党も非常戒厳宣言に反対している姿勢をみると、尹氏の〝ご乱心〟としかいいようがない。強いて言えば、韓国国内で反発が強い夫人の一連のスキャンダルによる混乱しか原因が思い当たらない」と話す。
国際社会も事態を注視し、米国家安全保障会議(NSC)の報道担当者は「憂慮すべき非常戒厳を解除し、国会を尊重したことに安堵(あんど)した」との声明を発表した。
だが、韓国社会の混乱は収まりそうにない。
野党「共に民主党」の国会議員一同は4日、「非常戒厳」宣布が「憲法と民主主義を蹂躙(じゅうりん)した」として、尹氏の即刻退陣を要求し、応じない場合には「弾劾手続きに突入する」と表明したのだ。
大統領に対する弾劾決議は国会在籍議員3分の2以上の賛成で可決され、大統領権限が停止される。憲法裁判所がその後、罷免するかどうかを判断する。
松木國俊氏「文政権に逆戻りかそれ以上の反動に」
韓国は今後、どうなりそうか。
前出の室谷氏は「与党にも亀裂が走っており、野党の弾劾案に同調する可能性は高い。憲法裁判所が数カ月かけて審理したうえで、弾劾が認められれば、大統領選になる。今回の件でさらに尹政権の支持率が下がるとみられ、『共に民主党』の大統領が誕生し、左翼政権になる恐れがある。そうなれば対米関係や、韓国経済も大混乱状態になるだろう」と予想する。
韓国で再び左派政権が誕生すれば、日本に与える影響も深刻だ。文在寅(ムン・ジェイン)前政権時代、韓国は数々の「反日」行為を仕掛け、日韓関係は戦後最悪という状態に陥った。
朝鮮近現代史研究所の松木國俊所長は「もし、『共に民主党』の李在明(イ・ジェミョン)代表が大統領になると、文政権に逆戻りか、それ以上の反動になる。いわゆる元徴用工問題や、慰安婦問題が蒸し返されかねない。李氏は過去に『台湾がどうなろうと、われわれには関係ない』と発言しており、『台湾有事』も心配だ。日米韓の協力関係は風前の灯になり、東アジアの安全保障は脅かされてしまう」と話した。