石破茂首相(自民党総裁)は衆院選で大惨敗を喫しながら、責任も取らずに「政権居座り」を画策している。首相を指名する特別国会召集を前に、なりふり構わぬ多数派工作を続けている。「政治は最高の道徳」と言われるが、筋の通らない続投に突き進む石破首相や党執行部への逆風は増すばかりだ。政界屈指の保守政治家で、総裁選の第1回投票でトップだった高市早苗前経済安保相への〝待望論〟もあるが、衆院選では保守系議員らも数多く落選した。安倍晋三元首相が育てた旧安倍派の実力者「五人衆」も「四人衆」に目減りした。石破首相の〝暴走〟を阻止する保守派は結集できるのか。国民世論の「猛烈な政治不信」は増幅している。
保守派は結集できるのか
「本日、天皇皇后両陛下主催の秋の園遊会に夫婦で参りました」
石破首相は30日、自身のX(旧ツイッター)で、このようなコメントと、佳子夫人との2ショットを公開した。
衆院選(27日投開票)で自ら掲げた「自民、公明両党で過半数」という勝敗ラインを大きく割り込みながら、28日の記者会見で「国政の停滞は許されない」「職責を果たしたい」などと、「国民の審判」を無視する続投宣言をして以降、2日ぶりの発信だ。
こうしたなか、石破執行部は延命工作を続けている。
その一つが、裏金問題で自民党から離党や非公認となり、衆院選に無所属で当選した議員らの取り込みだ。
旧安倍派の世耕弘成元参院幹事長と西村康稔元経産相、萩生田光一元政調会長、旧二階派の平沢勝栄元復興相、自民党候補を破った無所属の三反園訓氏、広瀬建氏の計6人が衆院会派「自民党・無所属の会」に入る見通しとなった。関係者が30日、明らかにした。
自民党ベテラン議員は「まさに、石破首相が痛烈に批判してきた『永田町の論理』そのものだ。自身の生き残りのため、昨日の敵は今日の味方とばかりに、恥も外聞もかなぐり捨てて、衆院選で切り捨てたはずの旧安倍派の囲い込みに走っている。醜い」と吐き捨てる。
裏金問題を受け、岸田文雄政権下の自民党は4月、世耕氏に離党勧告を行った。西村氏には党員資格停止1年、高木毅元国対委員長は党員資格停止6カ月、萩生田氏と、松野博一元官房長官には党役職停止1年の処分をそれぞれ言い渡し、問題を終結させた。
ところが、石破首相は総裁選でこの問題を蒸し返し、衆院解散直前には西村、高木、萩生田各氏らを含めた12人を「非公認」、松野氏ら34人に比例区の重複立候補を認めないなど、一事不再理に反する「二重処分」に踏み切った。かつての政敵・安倍元首相への凄まじい怨念を感じた。
投開票の直前には、石破執行部による「非公認」候補への2000万円支給などが報じられた。自民党は公示前256議席から65議席も減らし、191議席となった。自公与党で215議席となり、石破首相の責任ラインである過半数(233議席)を割り込んだ。
衆院選で、世耕、萩生田、西村、松野各氏は大逆風の中で激戦を制したが、高木氏は落選した。この5人は安倍派の実力者「五人衆」と称されたが、1人減らして「四人衆」となった。
ある保守系議員は「石破首相は、首相指名選挙を行う来月の特別国会で、切り捨てた旧安倍派も何とか会派に囲い込み、自身に投票させる思惑だ。自公は衆院で過半数割れしておりギリギリの戦いとなるだけに、党内は緊迫感が増していく」と指摘する。
一方、「安倍路線の継承」を打ち出す高市氏は衆院選で、「非公認」となった候補者らの応援に駆け回った。今後、保守派を代表する高市氏と「四人衆」はどう動くのか。
首相指名石破周辺は〝造反〟警戒
ジャーナリストの鈴木哲夫氏は「四人衆にもそれぞれの思惑があり、一枚岩とはいかないだろう。高市氏も、総裁選で推薦人となった側近らが相次いで落選し、権力闘争の基盤は弱まっている。安倍元首相の系譜を受け継ぐ議員たちが、どのように結束していくかは不透明だ。一方、小林鷹之元経済安保相ら若手保守派も登場し、世代交代のうねりも生まれる。麻生太郎元首相、菅義偉副総裁、岸田前首相ら『キングメーカー』の思惑も絡み党内政局は複雑化する」と予想する。
自民党内には、「石破首相は1分1秒でも早く辞意表明すべきだ」(青山繁晴参院議員)などと、首相が衆院選惨敗の責任を取って退陣すべきだとの声がある。「石破おろし」を予告する声も聞くが、派閥解消が影響しているのか動きは鈍い。
ただ、石破首相周辺は、首相指名選挙の投票を棄権する自民議員が出る事態を警戒している。
安倍元首相がブレーンとして信頼を寄せた麗澤大学の八木秀次教授は次のように指摘する。
「石破首相の政権運営は早晩、行き詰まる。そして状況はより悪化するだろう。自民党の保守派は、国民が特に求める『安全保障』と『経済対策』の具体的な政策論を高く掲げ、主張しなければならない局面だ。党内で『政権交代』を行うぐらいの意気込みが必要だ。首相は自衛隊の最高指揮官だが、石破執行部のガバナンス崩壊を見ると、とても『有事』に耐えられない。覇権主義を強める中国や、核・ミサイル開発を強行する北朝鮮を念頭に置けば、手をこまねいている余裕はない。安倍元首相は、皇位の継承やLGBTをめぐる課題など、日本の根幹にかかわる争点を機敏に察知し、的確に取り組んだ。わが国が全方位的に国難に直面するなか、保守派議員は気概を持って立ち上がる正念場だ」