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石破政権で日米関係に不安、鳩山首相の二の舞か 地位協定の見直し・アジア版NATO〝実現困難な政策〟打ち出し不信感

zakzak by夕刊フジ 2024年10月6日 10時0分

石破茂首相は4日、衆参両院で所信表明演説を行い、「現実的な国益を踏まえた外交」を掲げた。2日には、ジョー・バイデン米大統領との電話首脳会談で、日米同盟強化を図る方針を伝達した。石破首相は、自民党総裁選で「日米地位協定の見直し」、米保守系シンクタンク「ハドソン研究所」への寄稿で「アジア版NATO(北大西洋条約機構)の創設」を強調していたが、所信表明演説や電話会談では言及しなかった。実現性が疑問視されるうえ、米国を刺激しかねないため、またまた「豹変(ひょうへん)」したのか。識者は、石破首相と、民主党政権の鳩山由紀夫首相との類似性を指摘し、石破政権下での日米関係を不安視している。

「国民の皆さまからの信頼を取り戻す」「ルールを守る倫理観の確立に全力を挙げます」

石破首相は4日の所信表明演説で、こう言い切った。ならば、総裁選で打ち出した〝重要政策〟を封印するのは、政治家の「信頼」「倫理観」として、どうなのか。

この2日前、石破首相はバイデン氏と初めての日米電話首脳会談を行った。終了後、「今日は(日米地位協定改定に)具体的に踏み込んでいない。今後、機会を見て議論できたらいいと考えている」と記者団に語っていた。

在日米軍基地が集中する沖縄を中心に、協定改定を求める声は強い。協定の合意議事録に《(日本国の当局は)所在地のいかんを問わず合衆国軍隊の財産について、捜索、差押え又は検証を行なう権利を行使しない》との規定が存在するなど、さまざまな問題が指摘されているからだ。

例えば、2004年に沖縄国際大学(宜野湾市)で起きた米軍機墜落事故では、日本の警察の立ち入りが制限された。石破首相は総裁選中の9月17日、那覇市内での候補者演説会で墜落事故に触れ、「『これが主権国家なのかな』と私は思っている」と語り、(首相になれば)地位協定見直しに「着手する」と明言していた。1日の首相就任記者会見でも、「地位協定を改定していくことが同盟強化につながる」と語っていた。

石破首相の言動をどう見るか。

前駐オーストラリア大使の山上信吾氏は「米国は地位協定を日本だけではなく各国と結んでいる。日本で見直せば、他の同盟国との関係、米軍の構成を見直す問題に発展しかねない。過去に在日米軍関係の事件や事故が起きるたびに、外交の現場では運用面で突っ張って交渉し、米国側が譲歩してきた面もある。このため、米国側は(協定見直しを)前面に押し出すことを嫌がる。『絵に描いた餅』になるのではないか」と話す。

「アジア版NATO」も実現に向けたハードルが高い。

米国や欧州各国などによる軍事同盟であるNATOは、加盟国に対する攻撃を全加盟国に対する攻撃とみなし、集団的自衛権を行使することを規定している。だが、日本は集団的自衛権の全面的行使を違憲としており、石破首相が唱える構想がNATOに倣うのであれば、憲法改正や政府解釈変更が必要になる。

地域の事情も違う。

前出の山上氏は「NATOの加盟各国は『旧ソ連(ロシア)の脅威』を認識しているという点で一致しているが、アジアは事情が異なる。仮に、中国を脅威として結成しても、各国の対中姿勢に温度差が生じる可能性がある。本気で交渉に入れば5~10年は要するだろう。『台湾有事』の危機をはじめ、日本にとって喫緊の課題があるなか、リソースの無駄遣いではないか。日米地位協定の改定と同様、アジア版NATOは理想論で、心情的に理解できても最重要課題として論じるべき問題ではない」と語る。

〝地位協定見直し〟が米大統領選に影響も

日本の首相が「実現性困難な政策」を打ち出し、米国との関係がこじれたケースは過去にもあった。

民主党代表だった鳩山氏は09年7月、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先について、「最低でも県外」と言って同年8月の衆院選で政権交代を果たした。鳩山氏は首相就任後、当時のバラク・オバマ大統領にも「トラスト・ミー」と胸を張った。

ところが、鳩山氏は1年足らずで、「学べば学ぶほど抑止力(が必要と)の思いに至った」と豹変し、「(沖縄)県内移設」を容認した。この過程で米国側の不信感は高まり、鳩山氏は「ルーピー(愚か)」と呼ばれ、日米関係は混乱した。

福井県立大学の島田洋一名誉教授は「米大統領選が終盤に近づくなか、民主党のカマラ・ハリス副大統領も、共和党のドナルド・トランプ前大統領も米軍関係者の票を気にしている。地位協定の見直しは米兵の待遇に直結するため、米国を刺激する恐れがある。このタイミングで持ち出せば、日米関係を悪化させた鳩山政権の二の舞になりかねない」と語った。

石破首相の〝身内〟にも困難さを認める声が出ている。

総裁選の推薦人に名前を連ねた岩屋毅外相は2日の就任記者会見で、「時間をかけて中長期的に検討すべきだ。今、直ちに、相互防衛義務を負う機構をアジアで設立するのは難しい」と語った。

それで、自民党の党員・党友や、沖縄県民、国民は納得するのか。

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