中国は14日、台湾をぐるりと取り囲むようにして軍事演習「連合利剣―2024B」を実施した。これは台湾のエネルギー封鎖を狙ったものだ―と、中国共産党系機関紙、人民日報系の「環球時報」が報じた。
台湾が中国海軍に取り囲まれ、さらにタンカーが中国海警局によって「大量破壊兵器を持ち込もうとしている」などと難癖をつけられて「取り調べ」を受けて近寄れないようになると、中国による「封鎖」状態が完成する。
「『台湾有事』など本当にあるのですか」とよく聞かれるが、まったくやる気がなければ、このような軍事演習をすることはなかろう。中国は隙あらば襲い掛かってくる。
日本にとっても人ごとではない。
イエメンの親イラン武装組織フーシ派は、ドローンなどによる威嚇で紅海とそれに続くスエズ運河を事実上封鎖している。黒海では射程1000キロに達する海上ドローンで、ウクライナによってロシア黒海艦隊が封じ込められている。日本も同様に海上封鎖されるかもしれない
エネルギーは日本のアキレス腱(けん)だ。備蓄を増やし、インフラを強化しなければならない。だが、いま日本政府はまるで逆のことをやっている。
すなわち「脱炭素」のためとして、化石燃料の使用計画は低く抑えられている。利用抑制のために、課税や規制が強化されて、化石燃料事業はもうからない。このため事業者は投資をしない。
海外の資源開発には投資せず、権益を持っていても手放す。安定供給に重要な燃料輸入の長期契約もしない。火力発電所が老朽化しても、メンテもせず、次々に廃止する。揚げ句、節電要請が年中行事になった。日本の化石燃料インフラはボロボロだ。
「有事」になれば、軍事目標の次に狙われるのはエネルギーインフラだ。これはウクライナでもはっきり示された。ところが、日本政府はいま、中国が攻めてくる前に、自らエネルギーインフラを破壊している。
化石燃料は日本のエネルギー供給の8割以上を占める日本の生命線だ。これは「台湾有事」が起き得る今後数年は変わりようがない。封鎖を抑止するためには、頑強なエネルギーインフラを構築し、攻撃は無駄だ、と中国に見せつけておかねばならない。
化石燃料インフラには、平時から万全の投資を行い、少々攻撃されても十分に持ちこたえることが出来るようにすべきだ。愚かな「脱炭素」政策をやめ、化石燃料をエネルギー供給の主力と正しく位置付け、投資を推進すべきだ。
■杉山大志(すぎやま・たいし) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。1969年、北海道生まれ。東京大学理学部物理学科卒、同大学院物理工学修士。電力中央研究所、国際応用システム解析研究所などを経て現職。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)、産業構造審議会、省エネルギー基準部会、NEDO技術委員などのメンバーを務める。産経新聞「正論」欄執筆メンバー。著書・共著に『「脱炭素」は嘘だらけ』(産経新聞出版)、『亡国のエコ』(ワニブックス)、『SDGsエコバブルの終焉』(宝島社新書)など。