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桜林美佐 国防最前線 日本がゼロから育てたパプアニューギニア軍楽隊 音楽の授業、楽器もないところから…APECでの演奏に安倍首相も「ブラボー!」

zakzak by夕刊フジ 2024年7月20日 10時0分

日本と太平洋の島嶼(とうしょ)国・地域による「太平洋・島サミット」が16~18日、東京で開催された。中国が、この地域への経済進出や軍事拠点拡大を進めていることを受け、わが国としては人材育成や技術分野での支援を進めているところだ。

防衛省は今年3月、すでに島嶼国との防衛相会合を開いており、自衛隊制服組トップたちも次々に同地域を訪れている。

中国はこれらの国々と安全保障協定を結びつつ、「台湾との断交」を促している。米国とオーストラリアがこれを阻止せんとしている状況の中、日本としても可能なことをしようと、自衛隊ではソロモン諸島やフィジーなどの国々に対する能力構築支援を推進中だ。

その活動の一つに、パプアニューギニア軍楽隊創設があった。同国は2018年開催予定の、APEC(アジア太平洋経済協力会議)議長国に決まったが、軍楽隊を持っていなかった。自国で国歌の演奏ができないことが分かり、日本が軍楽隊を育成することになった。

支援事業をゼロから手がけたのは、陸上自衛隊中央音楽隊だ。15年当初から携わった同副隊長の柴田昌宣2佐によれば、パプアニューギニアの義務教育は小学校まで。しかも「音楽」の科目が存在しなかったため、人員を集めるところから始めたという。

「APECまで3年しかないのか!」

困難への挑戦だった。そもそも彼らには楽器がなかった。当時はまだ自衛隊の装備品を外国軍に供与すること、つまり装備移転はできなかったため自衛隊からの提供はできない。

そこで、宮城県の仙台育英高校吹奏楽部から中古楽器が寄贈されることになった。外務省のODA(政府開発援助)も供与してもらい、ようやく準備の第一歩が整った。

それから現地での指導が根気強く続けられ、彼らは見事、各国の国賓たちの前で演奏を成し遂げたのである。当時の安倍晋三首相は「ブラボー!」と声をあげた。

2022年には「自衛隊音楽まつり」に参加して、難易度の高いマーチングを披露するまでに成長した。コロナ禍を乗り越え、灼熱(しゃくねつ)の野外で練習を続けていたのだ。

彼らはここで、日本の唱歌「ふるさと」も披露した。餓死や病死が相次いだかつての激戦地パプアニューギニアで、どれほどの人たちがこの歌を口にしたことだろうか。

東部ニューギニアのジャングルには、現在でも約7万6000を超える将兵の遺骨が眠っている。多大な犠牲の上に、私たちの平和はある。そして、この平和を継続させるために、今一層の努力が必要になっているのだ。

■桜林美佐(さくらばやし・みさ) 防衛問題研究家。1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書・共著に『日本に自衛隊がいてよかった』(産経新聞出版)、『自衛官の心意気』(PHP研究所)、『危機迫る日本の防衛産業』(産経NF文庫)、『陸・海・空 究極のブリーフィング』(ワニブックス)など。

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