自民・公明両党は20日に決定した税制改正大綱において、「年収103万円の壁」として話題を集めていた非課税枠の103万円を123万円に引き上げることを明記した。国民民主党は30年前から最低賃金が1・73倍に上がっていることを根拠として、178万円まで非課税枠を引き上げることを主張していたが、与党はこの30年間の消費者物価の上昇率を踏まえて1・2倍の123万円を主張していた。
足元の経済環境に目を向けると実質賃金が低下し続けることで消費が停滞し、日本社会全体では労働市場における人手不足や少子高齢化などいくつもの課題が山積みである。1つの政策で全てを解決できることはないのだが、今回の国民民主党の提案は有効な解決策の1つとなるであろう。
しかし、与党は非課税枠の引き上げによって、税収が地方で5兆円超、国は2兆円台半ばの減収になることを懸念して非課税枠の引き上げには慎重な姿勢を見せている。
税収が低下することで地方の公共サービスの質が低下するなどの話も出ているが、2024年度の税収は73兆4350億円になるとの見通しが発表されており、仮に実現すれば5年連続で税収が過去最高を更新することになるのだが、その間は公共サービスの質は向上したのだろうか。そもそも、減税政策を考える際に単年度では税収が減ることを懸念するのはよく分からない。複数年度で考えるべきだろう。
石破茂政権は政策として最低賃金を「20年代に1500円」に引き上げる目標を明記している。また、10月の所信表明演説では「デフレ脱却を最優先に実現する」とした。物価に関しては日本銀行も「2%の物価上昇率を持続的・安定的に実現する」ことを目標にしている。
仮に政府・日銀の目標が実現され、30年までに最低賃金が1500円になり、物価も年間2%ずつ上昇した場合、今回123万円に引き上げるとした「壁」は近いうちに改めて引き上げることになるのではなかろうか。
長期にわたる実質賃金の低下を背景にした消費不振、人手不足、少子高齢化など、課題が山積みのわが国において、財政を制約としたちぐはぐな政策を打ち出すのではなく、課題解決に向けたブレのない一貫した政策を打ち出す必要がある。
■森永康平(もりなが こうへい) 経済アナリスト。1985年生まれ、運用会社や証券会社で日本の中小型株のアナリストや新興国市場のストラテジストを担当。金融教育ベンチャーのマネネを創業し、CEOを務める。アマチュアで格闘技の試合にも出場している。著書に父、森永卓郎氏との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)など。