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ドル覇権崩壊の序曲「1ドル=70円」の超円高に備えよ 「基軸通貨としての地位は着実に弱体化」未曽有の危機の恐れ

zakzak by夕刊フジ 2024年8月19日 6時30分

国際投資アナリスト・大原浩氏寄稿

8月5日の東京株式市場で、日経平均株価は4451円安と過去最大の下げ幅を記録し、多くの投資家や市場関係者を震撼(しんかん)させた。国際投資アナリストの大原浩氏は、国内事情だけを考えれば、今後の経済や株価の動向をそれほど心配する必要はないとする一方、大きな懸念材料が米国の「バブル崩壊」だという。第二次世界大戦後、基軸通貨として覇権を握ってきたドル中心主義が崩壊し、「1ドル=70円」を上回る「超円高」への警戒が必要だと指摘する。

米国では日本の1980年代と似たような状況のバブルの崩壊が迫ってきていると考えるべきだ。しかも、今回の米国バブルはリーマン・ショックを救済した結果起こったものである。さらに言えば、71年のニクソン・ショック以来、金との互換性を失ったドルの大量発行の結果生じたドル(通貨)バブルも崩壊の足音が聞こえる。

私が執行パートナーを務める人間経済科学研究所代表パートナー(財務省OB)の有地浩も同意見だが、「現在の(ドルを中心とした)世界通貨システム」の継続さえ危うくなるような未曽有の危機がやってくる恐れがある。

ドルの基軸通貨としての地位は着実に弱まっている。金ドル交換停止以来、「ドルの価値」が保たれてきたのは、「石油決済通貨」としての重要性のおかげだ。だが、その特別な地位も、ジョー・バイデン政権の稚拙な外交で石油輸出国機構(OPEC)の盟主サウジアラビアと関係が悪化したことで、維持が困難になってきている。

「非西欧」の中心軸であるBRICSの台頭もドルの価値を低下させる要因だ。元々BRICSは「ドルを基軸とした世界金融・経済体制」からの脱却を目指していた。そこに、バイデン政権による「やりすぎ経済制裁」が加わったため、拡大版も含むBRICSのドル離れがますます深刻になったのだ。

BRICSの理想は「通貨バスケット」を含む「独自共通通貨」が経済活動の中心になることである。しかし、それには時間がかかる。ドル離れした資金は金に向かっているといえよう。最近の金価格の高騰には各国中央銀行の買いが影響している。

それでは、米国の金の保有はどのくらいなのか。金ドル交換停止に追い込まれて以来、米国の統計数字はまったく当てにならないため、実際のところは不明だ。

また以前からドイツも、パリ、ニューヨークから自国のフランクフルトへ金の保管場所を移管してきた。「有事の金」を手元に置きたいという意向のためであろう。

さらに、ウクライナ戦争やガザ紛争の状況を見れば、現在の米国は「世界の警察」とは言い難いことは明らかだ。特に米大統領選で「確トラ」(確実にドナルド・トランプ氏の当選)が予想される現在では、自ら警察の役割を放棄することも考えられる。そうなれば「米国の軍事力」というドルのサポート要因も弱まることになる。

トランプ政権になっても「失われたバイデン政権の4年」の後始末だけではなく、ニクソン・ショック以来、脆弱(ぜいじゃく)になったドルの価値の維持にも奔走しなければならない。

トランプ氏自身は、米国製造業発展のためのドル安を容認する方向だが、1ドル=70円を超えるような「極端なドル安」が起こる可能性もあるとみている。

欧州の政治・経済も混乱の度合いを深めており、大幅なユーロ安の可能性も高い。

そうなれば、日本経済が無傷でいることは難しいであろう。

■大原浩(おおはら・ひろし)人間経済科学研究所執行パートナーで国際投資アナリスト。仏クレディ・リヨネ銀行などで金融の現場に携わる。夕刊フジで「バフェットの次を行く投資術」(木曜掲載)を連載中。

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