欧米で、移民への対応を従来とは違って厳格化させる動きが続いている。
欧州では2015年に「欧州難民危機」と呼ばれる大量の難民の流入があった。主に中東地域やアフリカから、正規手続きを踏まずに海や国境を越えて自国に流入する人々が多数見られたことから、難民を含む移民の受け入れに反対する動きが欧州各地で起こった。
その結果、ドイツ、フランス、英国、スウェーデン、フィンランドを含む多くの国で、移民政策に消極的な政党が議席を伸ばしている。
さらに、15年からの難民危機で制度が破綻したので、欧州連合(EU)は24年5月、移民の流入を抑制した新制度案を承認した。この制度は26年から適用され、イタリアやギリシャなど南欧諸国の負担を軽減しようとするものだ。
EUは合法の移民に対してはEU加盟国の国民と同等の権利と義務を与える一方で、非合法移民に対しては取り締まりを強化する方向だ。
米国では、第1次ドナルド・トランプ政権で移民政策は厳しく変わったが、ジョー・バイデン政権になると移民に寛容な姿勢になった。
バイデン政権は24年の大統領選が近づくと、移民の流入抑制へとかじを切ったが、時すでに遅しで、第2次トランプ政権が誕生しようとしている。米国民も、本音では「もう移民はいい」ということなのかもしれない。移民に寛容だった州も、トランプ政権になると手のひらを返すかのように不寛容に転じるところも出てきている。
このような欧米における移民政策の転換の背景として、「移民に職を奪われる」という労働者の本能に基づくものがある。また、移民に社会保障が適用されることが自国の社会保障制度への負担となるという懸念や、治安の悪化につながり、本来の固有の文化が侵食される恐れがある、といった事情が指摘されている。
筆者は、世界各国のデータから、移民比率の向上が必ずしも経済成長を高めることにならないというデータ分析を公表したところ、一部の移民推進学者からは意味不明の批判があったが、多くの人から賛同された。おそらく、人々の感覚に合致したのだろう。
埼玉県川口市では、クルド人問題が注目を集めている。これまでクルド人は「難民」とされていたが、実態にそぐわないと指摘されている。最近の産経新聞のスクープでは、20年ほど前から「出稼ぎ」だった実態が報告されていたというが、こうした事実が握り潰されていたようなのだ。
筆者の移民政策に対するスタンスは単純で、「経済成長に資さないのであれば受け入れない」というものだ。もはや日本は欧米のまねをして、人権を理由とする移民の受け入れをやる必要はない。まさにその欧米が反面教師となっているからだ。
経済成長に資する移民政策とは、日本が主体的に受け入れの判断を行うことが重要だ。一律に受け入れるのではなく、逆に日本から移民を取りに行くようにしたらいい。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)