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岩田温 日本の選択 自民党派閥は「新人議員の教育機関」「安倍派はある意味で…」谷垣禎一元総裁の回顧録から読み解く派閥解体は「党崩壊の序曲」か

zakzak by夕刊フジ 2024年9月6日 11時0分

昨今、蛇蝎(だかつ)のごとく嫌悪されているのが自民党の派閥だ。しかし、派閥は「新人議員の教育機関」として機能していたとの事実は閑却(かんきゃく=重視しないで打ち捨てておくこと)すべきではない。

自民党総裁を務めた谷垣禎一氏は回顧録『一片冰心(いっぺんひょうしん)』(扶桑社)において、自身が宏池会で先輩であった加藤紘一元幹事長から学んだ経験を次のように振り返っている。

加藤氏は、谷垣氏に次のように語ったという。

「首相になるような大先輩に憧れるのもいいが、自分より少し当選回数が上の立派だなと尊敬できる先輩を探すことも大事だ。(略)さあ、どう行動しようかと迷ったときに、その少し上の先輩がどう行動するのか、よく見ておくんだ。そういうのはすごく役に立つんだぞ」

具体的で愛情のある指導といえよう。政治家である限り、大政治家を仰ぎ見るのは当然だ。しかし、加藤氏は同時に自らの派閥の尊敬すべき少し上の先輩を探し出し、その行動に注視せよという。

仮に、派閥が存在しなければ尊敬すべき少し上の先輩を探すことも困難だろうし、指導を仰ぐことも難しいだろう。場合によっては会話する機会すら得られないかもしれない。人数が多すぎては人間付き合いは希薄になる。大学のゼミでも学生が集まりすぎた学年の学生とは、どうしても一人一人と話す時間が限られる。

大政党ではなく、小規模な派閥ならではの教育効果が期待されたのだ。

谷垣氏は指摘する。

「派閥は百人を越えると割れるといいます。(略)やっぱり百人規模だと過大になってしまって、マイナスの面が出てくる気がするのです」

ここでいう「マイナスの面」とは、少人数ならではの細やかな指導や助言が得られなくなることだろう。政治家である限り、顔と名前を一致させることは可能だろうが、先輩の一挙手一投足を観察することは不可能だろう。

そして、谷垣氏は「派閥なき自民党」の未来を暗示するような意味深長な指摘をしている。

「安倍派(清和政策研究会)はある意味で、派閥がなくなった自民党の姿の走りだったのかもしれません。」

100人を超えた派閥が一致団結を欠き、瓦解(がかい)するとするならば、400人を執行部のみで束ねようとする巨大政党が分裂に至るのは当然のことではないか。

派閥解体が「自民党崩壊の序曲」となる可能性は否定できない。岸田文雄首相は大先輩の助言に聞く耳を持つべきだった。

■岩田温(いわた・あつし) 1983年、静岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、同大学院修士課程修了。大和大学准教授などを経て、現在、一般社団法人日本学術機構代表理事。専攻は政治哲学。著書に『興国と亡国―保守主義とリベラリズム』(かや書房)、『後に続くを信ず―特攻隊と日本人』(同)、『新版 日本人の歴史哲学~なぜ彼らは立ち上がったのか』(産経新聞出版)など多数。ユーチューブで「岩田温チャンネル」を配信中。

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