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花田紀凱 天下の暴論プラス 蝉を詠んだ数々の名句 室生犀星、正岡子規、夏目漱石…それにしても、声が少ない今年の夏「蝉しぐれ」という言葉を忘れそうだ

zakzak by夕刊フジ 2024年8月29日 15時30分

『月刊日本』の9月号が届いた。毎月、いの一番に読むのが編集長南丘喜八郎さんの編集後記。

今月、なんと南丘さんが、蝉のことを書いていた。

<数日前の早朝、散歩をしていて驚くべき大発見! 一枚の桜の葉裏に5ツもの蝉の抜殻があったのだ。

蝉の一生は「7年7日」と言われ、地中で7年間、地上に出てから1週間で一生を終える>

自ら撮った5匹の抜け殻の写真が載せてあり、たしかに1枚の葉に5匹の抜け殻が。

蝉好きを自任、毎年、夏になると、このコラムに必ず蝉のことを書いているぼくも、こんな光景は見たことがない。

そして、南丘さんは蝉を詠んだ2句を添えている。

まず芭蕉。

やがて死ぬ

けしきは見えず 蝉の声

<8月は流星の月だ。毎年この季節にペルセウス座流星群が見られる。>

次に虚子の句。

星一つ

命燃えつつ 流れけり

嬉しくなってすぐに南丘さんに電話。

「南丘さん、なんでまたこんな珍しいもの見つけたの」

「だって、毎朝、散歩の時に、蝉の抜け殻、探してるんだもの」

「エッ? じゃ南丘さんも蝉好きなんですか」

「子供の頃、夏になると、毎日鳥モチで蝉採ってたもの。井の頭公園の近くだったから、たくさんいた」

「鳥モチ、懐かしいなぁ。あれはベタついて困ったよね。ぼくも、当時、駒沢に住んでたんだけど、弟と2人、毎日、朝から蝉採ってた」

ほぼ、同年代だから、話が合う。

「蝉の声が聞きたくて、山形の立石寺(山寺)に行って帰って来たばかり。ちゃんと歩いて千段昇りましたよ」

で、1句、詠みましたと言って南丘さんが披露してくれたのが――。

秋立ちぬ

一瞬のしじま 法師蝉

うーん、こういう素養のある南丘さんが羨(うらや)ましい。

「そう言えば中曽根さん(康弘総理)も蝉を詠んでましたね。最晩年に」

暮れてなお

命の限り 蝉しぐれ

「私の時代はもう終わったけれど、私は生きている限り、命の限り、社会のため貢献したい――そんな中曽根さんの心境を表したいい句です」

蝉のことは散々、書いてきたけれど、これは盲点だった。

で、早速、歳時記などを繰ってみると、多くの俳人、文人が蝉を詠んでいるではないか。

室生犀星

ふるさとや

松の苔づく 蝉のこゑ

正岡子規

一筋の

夕日に蝉の 飛んで行

中村汀女

暁の

その始りの 蝉一つ

夏目漱石

松風の

絶え間を蝉の しぐれかな

それにしても、今年の夏も蝉の声が少ない。「蝉しぐれ」という言葉を忘れそうだ。

(月刊『Hanada』編集長・花田紀凱)

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