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渡邉寧久の得するエンタメ見聞録 機内に広がる衝撃…人間の地金をはがす極限の飛行機パニックドラマ 映画「エア・ロック 海底緊急避難所」

zakzak by夕刊フジ 2024年8月5日 6時30分

弦楽の劇伴と海面の映像が、先々の怖さを暗示させる冒頭。16日公開の映画「エア・ロック 海底緊急避難所」(クラウディオ・フェア監督)はそんな風に始まる。

場面は変わって、旅立つ直前の歓喜に満ちた空港。卒業旅行を楽しみにしている州知事の娘と恋人と友人、祖父母と孫娘の3人組、そしてCAが物語の核になる。

安定飛行に入った直後、エンジンに鳥が飛び込むバードストライクに見舞われる。機内に広がる衝撃。その直後、孫娘がエンジンが炎上するのを発見し、物語は一挙にパニックの様相を呈する。

エンジンの一部が窓ガラスを破り機内に飛び込み、機内の安定は乱される。飛行機の壁が吹き飛び、乗客が次々に空中に放り出される。急降下し(そこで意識を失わないのか! というツッコミはさておき)、海底へと巨大な機体が沈んでいく…。そこから始まる脱出劇へ物語は移行する。

生き残った人数は、わずか7人。タブレットもない。客席は水浸しになる。わずかに残された空気、水圧によるノイズ。周辺の海域にはサメが群れ、機内にもわが物顔で入り込み、生き残った人間をかみちぎる。五感に恐怖が押し寄せる。

極限状態は、人間の地金をはがす。希望を捨てない者、あきらめの早い者、死に直面している恐怖を生存者のひとりである10歳の女児に悟られまいと振る舞う者。パニック下における精神状態や人間の底力を描きつつ、恐怖がさらに深掘りされていく。

座して待つか、脱出するか。希望はほとんどゼロに近い。この作品に、スティーブン・セガールはいないのである。

絶妙のタイミングで、救援隊はちゃんとやってくる。生存者に望みを与えたが、それも一瞬のこと。サメの餌食になり、希望は断たれる。

よく知られたキャストも出てこない。超人的なヒーローもいない。絶望的な状況だが、老若男女の7人は対立することもなく、お互いをいたわり合う。足手まといにならないようにと身を引く美学も描かれ、人間ドラマの側面もある。

低予算で撮られているが、ディザスター映画としての迫力もリアリティーもきちんととらえられていて、ヒンヤリとした恐怖感も上出来だ。 (演芸評論家・エンタメライター)

■渡邉寧久(わたなべ・ねいきゅう) 新聞記者、民放ウェブサイト芸能デスクを経て演芸評論家・エンタメライターに。文化庁芸術選奨、浅草芸能大賞などの選考委員を歴任。東京都台東区主催「江戸まちたいとう芸楽祭」(ビートたけし名誉顧問)の委員長を務める。

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