ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアが、不法占拠する北方領土の色丹島周辺海域での「軍事演習」を通告し、日本政府が抗議していたことが分かった。演習は、米大統領選が投開票される5日に開始するという。日米同盟を揺さぶる狙いがあるとの分析もある。北方領土は日本固有の領土だが、ロシアは軍備を着々と強化し、演習を重ねるなど実効支配を強めている。石破茂首相は、国民に「政権の信任」を問うた衆院選で大惨敗を喫し、政権運営はガバナンスの崩壊が指摘されている。日本周辺で、ロシアと中国、北朝鮮という全体主義国家が連携を強めるなか、国民に「不信任」を突き付けられた政権で「有事」に対応できるのか。
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外務省などによると、ロシアは10月30日までに、色丹島の北方で射撃訓練を行うと日本などに通告してきた。米大統領選が行われる5日以降、20日まで連日行うとしている。
日本政府は10月31日付で、外交ルートを通して、「北方四島におけるロシア軍の軍備強化につながるもので、わが国の立場とは相いれず、受け入れられない」などとロシア側に抗議したという。
防衛関係者は「米大統領選を意識し、日米同盟を牽制(けんせい)する動きではないか。さまざまなリスクを念頭に、『有事』に即応する防衛力の抜本強化が必要だ」と危機感を強める。
ロシア軍は近年、日本周辺に航空機や艦艇を頻繁に出動させ、領空侵犯や領海侵入を辞さない軍事活動を活発化している。北方領土では、ミサイル能力の向上と並行して、不定期の大規模演習「ボストーク」を行い、1万人規模の兵員、多数の航空機・艦艇を動員して「他国からの防衛」を想定した演習も行っている。ドローンを投入して「近代戦」を想定した訓練も行われたとされる。
習近平国家主席率いる中国軍との連携も重大懸念だ。日本海や太平洋、東シナ海などで、ロシア軍と中国軍がそれぞれの演習に相互参加している。「パトロール」と称して、両国の艦隊が日本列島を一周するような〝示威行動〟も行っている。5月の中露首脳会談では、経済関係の強化に加え、合同演習の規模を拡大することなどでも合意している。
日本にとって、まさに「今そこにある危機」だが、日本の外交的対応は及び腰だ。北方領土での度重なる主権侵害などに抗議を繰り返しているが、ロシアは「カエルの面に○○」といった様子で、日本は「遺憾砲」に終始せざるを得ない状況が続いている。
「安全保障のスペシャリストで固めた」はずの内閣は…
10月の衆院選で、自ら勝敗ラインとした「自民、公明与党で過半数」を大きく割り込みながら、「政権居座り」を決め込む石破首相とその政権についても不安が指摘されている。
石破内閣は、防衛相経験者の岩屋毅外相や中谷元(げん)防衛相、防衛副大臣を務めた長島昭久首相補佐官、元防衛審議官の槌道(つちみち)明宏・首相政務秘書官など、「安全保障のスペシャリストで固めた陣容」(首相周辺)という。石破首相の持論「アジア版NATO(北大西洋条約機構)構想」や「日米地位協定改定」を念頭に置いたとの見方がある。
一方で、「石破首相は自身が詳しい『ミリタリー(軍事)』に特化している感が否めない。国際情勢を踏まえた『大局的な安保政策』には不安がある」(自民党保守系議員)との指摘もある。
ロシアによる軍事演習通告を受け、石破内閣として正々堂々と抗議を公表してもいいのではないか。
ロシア、日米演習に異例の抗議
今回のロシアによる北方領土での軍事活動をどう見るのか。
ロシアの外交・安全保障に詳しい笹川平和財団の畔蒜(あびる)泰助上席研究員は「米国に対する圧力が大きな狙いだろう。ロシアの大きな外交・安全保障戦略は、ウクライナ情勢で対立する米国・西側諸国の軍事的リソース(資源)を分散させ、各方面で負荷をかけることだ。中国との接近や、イエメンのフーシ派を支援する姿勢もその一環だ。北方領土での軍事活動は、共同歩調をとる日本への牽制もあるが、米国はじめ西側にコストをかけさせる狙いがあるのではないか」とみる。
実は、ロシアは、10月23日から1日の日程で、北海道を含めた日本各地で行われている日米共同統合演習に対し、モスクワの日本大使館に「断固たる抗議」を伝達している。
畔蒜氏はこれに注目し、次のように分析する。
「異例の抗議だ。日米共同統合演習にNATO諸国も参加し、北海道でも行われたことへの強い反発のあらわれだろう。5日という日程は米大統領選を狙った可能性もあるが、日米演習を終えた直後という点もポイントではないか。色丹島は過去にも演習が行われているが、1956年の日ソ共同宣言で、両国の平和条約締結後に日本に引き渡されるとなっている。日露関係は引き続き悪化の一途で、交渉のハードルが高くなっている」