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日本の解き方 「岸田・植田ショック」から1週間、日銀の〝真の権力者〟が判明 金融引き締めのDNAは健在か 日銀プロパー内田副総裁が「火消し発言」 

zakzak by夕刊フジ 2024年8月14日 15時30分

〝岸田・植田ショック〟から1週間

連休明け13日の東京株式市場は、日経平均株価が大幅続伸した。終値は前週末比1200円以上値上がりし、節目の3万6000円台を回復した。「岸田・植田ショック」ともいわれた史上最大の暴落(5日)から約1週間、市場の警戒感はいったん和らいだ。先週の暴落は、日銀が7月末に追加利上げを決め、植田和男総裁がさらなる利上げを示唆したことで円高株安が一気に加速した。岸田文雄首相ら政府・与党関係者も「円安対策」や「金融正常化」として事実上、利上げを要請していた。日銀の「組織的本能」と「真の権力者」とは。元内閣参事官で嘉悦大学教授の高橋洋一氏が迫った。

日銀の植田総裁が、年内のさらなる追加利上げを否定せず、市場が大荒れとなった問題では、内田真一副総裁が「火消し発言」を行った。利上げを急いだのは、植田総裁の暴走だったのだろうか。

財務省と日銀は似たような組織だ。筆者はかつて就職にあたり国家公務員試験を友人が受けると言うので気楽に受け、ロクに官庁訪問もせずなんとなく大蔵省に入った。

会社訪問の解禁日をかなり過ぎたころ、日銀の近くに用事があったので、大蔵省に内定していたにも関わらず冷やかしで訪問した。そうしたらその日のうちに理事面接が行われ、内定してしまった。その事情を正直に大蔵省の人事担当者に話したら、「『大蔵省に入る』と日銀に説明してこい」と言われたので、後日、日銀の人事担当者に謝りに行った。大蔵省から連絡があったらしく、円満に事なきを得た。

その時、大蔵省の担当者から、「大蔵省も日銀も似たような組織で、マクロ経済の財政政策が大蔵省、金融政策が日銀だ」と説明を受けた。「日銀に行きたければ大蔵省から出向させてやる」とも言われた。

大蔵省、そして現在の財務省には「緊縮財政」というDNAがあることは本コラムでたびたび指摘してきた。大衆迎合的な政治家による財政拡大要求に対抗する、というカッコいい見方もあるが、実態は歳出権を絞って財務官僚の価値を高める、有り体に言えば恩を売るというわけだ。

日銀には「金融引き締め」のDNAがあるかもしれない。かつて大蔵省は緊縮財政をやりたいが社会へのしわ寄せを避けるために、金融緩和を望んだ。日銀には大蔵省への反発があり、日銀内で利上げは「勝ち」、利下げは「負け」とも言われていた。筆者が勤務していた当時の大蔵省は、露骨に金融政策決定会合に関与し利下げを主導していたので、そうした話を聞いたことがある。日銀の金融引き締めは通貨を絞ることなので、通貨の価値を高める通貨当局としては「本能」とも聞いた。

日銀は1990年代から2000年代の「失われた20年」で、世界最下位になるほど金融引き締めを行った。これは日銀官僚の無謬性(むびゅうせい=誤りがないという前提)もあるが、日銀の「組織的メモリー」として金融引き締めがあるとしか思えない。

実際に黒田東彦(はるひこ)総裁時代より前の日銀は、デフレを脱却しそうになると金融引き締めを行ってきた。1990年代から2000年代には、日銀は「良いデフレ」とも公言していた。筆者ら「リフレ派」が提唱してきた金融緩和は、今でも日銀プロパーに不評らしいので、金融引き締めのDNAは健在なのかと邪推してしまいそうだ。

今回、学者出身の植田総裁の発言を、日銀プロパーの内田副総裁が否定したので、誰が本当の権力者なのか分かってしまった。利上げ志向は植田総裁個人の意見であるはずもなく、内田副総裁を含めた日銀全体に金融引き締めを急ぐ本能があったと言わざるを得ない。

■高橋洋一(たかはし・よういち) 元内閣参事官・嘉悦大学教授。1955年東京都出身。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒。博士(政策研究)。80年大蔵省(現財務省)入省。理財局資金企画室長、米プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、内閣参事官(首相官邸)などを歴任。小泉純一郎内閣、第1次安倍晋三内閣で経済政策のブレーン、菅義偉内閣で内閣官房参与を務めた。著書に『60歳からの知っておくべき経済学』(扶桑社新書)、『日本はどこに向かおうとしているのか』(徳間書店)など多数。ユーチューブ「高橋洋一チャンネル」の登録者数は約112万人。

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