この年末、2つの高い物が壊れた。これは先日、銀座博品館で公演した時代劇舞台のギャラが吹き飛んだことを意味する。
壊れたのは、ひとつは最新の大型オフロードバイクの電子パーツで、もうひとつはリビング用の大型エアコンだ。
エアコンのほうは、予算をかければ修理ができるかもしれないというが、修理の間はエアコンが使えなくなる。
わが家には16歳になる元気なバアちゃん犬がいるので、冬のエアコンは必須だ。仕方がないので旧知の業者に頼んで買い替えることにした。
そしてこの2つの支払いをしながら、そこに共通する「闇」にふと気がついた。
私の大型オフロードバイクは2022年型の900ccで電子系満載だ。
ハンドルの前にスマホが付いているようなもので、出力特性から姿勢制御、ブレーキの利き方、ハンドルのヒーター調整までいろいろとコントロールできるようになっている。
興味がない方にしたら複雑怪奇な内容だろう。便利で強力なツールでもあるが、逆にそれが厄介なこともある。
プロメカニックであろうと、正規ディーラーのみにあるOBD(車載式故障診断装置)の機器とアクセスしないと修理ができない。今回の修理もディーラーにお任せした。
このシステムは、今や四輪では車検も含めて当たり前になりつつある。
だが、オフロードバイクというのは、携帯の通じない山奥に分け入るような使い方もすることが多く、転倒することも大前提だ。不調をきたしたときに、現地である程度は自分で対処する必要がある。また、それが命に関わることもある。
10年前くらい前のマシンまではアナログな制御だったので、ある程度は可能であった。山の中で自分で直したこともある。だが、昨今のハイテクマシンになると、ブラックボックスの部分が多くなった。
本末転倒な進化である。アドベンチャーを強く標榜(ひょうぼう)しておきながら、貧弱になったというわけだ。この手の特殊なツールには、アナログの堅牢(けんろう)さを残しておく必要がある。
そして、いきなりエアコン選びの話に飛ぶが、知人の業者とエアコンのカタログを見ながら選んでいるときのことだ。
「加湿、セルフクリーン機能、薄型スリムタイプなどは避けたほうがいいです」とアドバイスがあった。
しかし、カタログで派手に前面に推しているのは、その手のいろいろな機能の付いているタイプであった。
一方、彼が勧めるのはカタログの後ろのほうにある、何も余計な機能の付いていない、スリムでもない武骨なスタンダードタイプ。
彼いわく、商売にはならないが、その手のタイプのほうが明らかに長持ちするという。
確かに、複雑な機能や無理な小型化は、当然耐久性に悪影響がないわけがない。
その話を、軍事オタクのバイク友人にすると、軍事のハイテクシステムはトラブルイコール「死」なので、バグが出尽くしたような、あえて最新ではないシステムを使う、と。
なるほど、バイクもエアコンも命がけではないということか。
■大鶴義丹(おおつる・ぎたん) 1968年4月24日生まれ、東京都出身。俳優、小説家、映画監督。88年、映画「首都高速トライアル」で俳優デビュー。90年には「スプラッシュ」で第14回すばる文学賞を受賞し小説家デビュー。NHK・Eテレ「ワルイコあつまれ」セミレギュラー。現在公開中の映画「ファストブレイク」に出演。2025年1月22~26日には、東京・池袋「シアターグリーン BIG TREE THEATER」で上演の劇団アルファーvol.46「爺さんの空」に出演。