外国人が運転する自動車が引き起こす交通事故について繰り返しお伝えしてきたが、このところ各メディアがさかんに取り上げているのが、「外免切替制度」だ。
各国で自動車運転免許証を取得後、同地に90日以上滞在した履歴があれば、簡易な試験のみで日本の免許を取得できる。
短期滞在の外国人が日本で自動車を運転する場合、一般的に利用されるのが国際免許証で、ジュネーブ条約加盟国(196カ国)発行の運転免許証があれば、無試験で取得することができる。
ただ、この条約に加盟していない中国の免許証では、日本で有効な国際免許証を取得することができない。
そこで注目されているのが外免切替制度だ。この試験を行っている都内の運転免許試験場は、早朝から中国人が行列をなしているという報道もある。
実は筆者も15年ほど前、この外免切替制度を利用して日本の運転免許証を取得した。筆者は日本国籍だが、日本の運転免許証を持っておらず、米国在住時に取得したニューヨーク州発行の免許証からの切り替えだった。
ジュネーブ条約に加盟する米国の免許からの切り替えということで、実技のみ。試験場のコースを一周しながら、進路変更や右左折などの課題をクリアする必要があったが、現地でそこそこの運転歴があったため、難なく合格することができた。
一方、ジュネーブ条約に加盟していない中国の免許からの切り替えには学科試験も課されるが、二者択一の10問で、7問以上の正解で合格という簡単なものである。
当時、試験会場にそれほど多数の中国人がいたという記憶はないので、中国人にこの制度が注目されたのは、おそらくそれより後のことなのだろう。
筆者は外免切替によって日本の運転免許を取得して以来、日常的に自動車を運転しているが幸いなことに無事故である。しかし、教習所に通うなり、一発試験に合格するなりして日本でイチから運転免許を取得する場合と比較すれば、外免切替試験の容易さは歴然としている。観光立国化や外国人労働者の受け入れといった政策が進められるなか、今後、外免切替で日本の免許を取得した運転者による交通事故が続発する可能性もある。
それは日本国内だけの話で済まない怖れもある。ジュネーブ条約の加盟国ではない中国などの運転免許証の持ち主が、日本の制度を利用し、同条約に基づく国際免許証も取得できるようになるからである。加盟各国で日本の免許証保有者による事故が頻発すれば、発行国の責任問題になりかねない。制度の再考が必要だ。 =この項おわり
外国人材の受け入れ拡大や訪日旅行ブームにより、急速に多国籍化が進むニッポン。外国人犯罪が増加する一方で、排外的な言説の横行など種々の摩擦も起きている。「多文化共生」は聞くも白々しく、欧米の移民国家のように「人種のるつぼ」の形成に向かう様子もない。むしろ日本の中に出自ごとの「異邦」が無数に形成され、それぞれがその境界の中で生きているイメージだ。しかしそれは日本人も同じこと。境界の向こうでは、われわれもまた異邦人(エイリアンズ)なのだ。
■奥窪優木(おくくぼ・ゆうき) 1980年、愛媛県出身。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国で現地取材。2008年に帰国後、「国家の政策や国際的事象が、末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに取材活動。16年「週刊SPA!」で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論され、健康保険法等の改正につながった。著書に「ルポ 新型コロナ詐欺」(扶桑社)など。