Infoseek 楽天

ぴいぴる 歌手・当山ひとみ 歌い続けてきた今だから伝えられるソウル オリジナルにこだわり…進化し続けるのが〝ペニー〟の存在意義

zakzak by夕刊フジ 2024年9月6日 11時0分

私は曲に恵まれた

いまや世界中で評価が高まっている1970~80年代の日本のシティポップ。中でも注目されているのが彼女だ。デビューから43年。今、そのソウルフルでファンキーな歌声が世界を魅了している。

「やっぱり私は曲に恵まれたなって思うのよ。あの頃は今と違って、すべてが生だったじゃない。シンガーもプレーヤーもみんなで集まって、音を奏でる。何時間もスタジオにこもって納得するまで何度でもやったわ。そんな熱さがあったのよね」と、愛すべき〝ペニー〟は持ち前の明るさであっけらかんと語る。

そんな彼女の足跡を振り返るベスト盤「Pretty Penny」(日本コロムビア)が今年リリースされた。正直、これが40年前の音なのかと驚かされる。

「プロデューサーが細部にまでこだわる人で、まだ日本語が上手じゃない私にも、ちゃんと日本語で歌えって厳しく言うのよ。何度もやり直すと、だんだんどうでもよくなってきてね、そのときに言われたの。レコーディングは完璧にやったほうがいいって。何十年たって聴いても、いいと思えるものを作りなさいと。そのころは『分かりましたぁ~』ぐらいに聞いていたけど、今はよく分かるわ。だってこうして、過去の歌がよみがえってきたんだもの」

中2まで沖縄に暮らし、そこからは米オークランドで高校生活を送った少女がなぜ日本で歌手になったのか。実はもともとは歌手になる気なんてなかったそうだ。

「姉が先に日本に来ていて、歌手として働いていたんです。私は何カ月か遊びに来た感じだったけど、日本が楽しかったので長居をしていたら、姉から『あなたも働きなさい』と言われたんです。で、日本語も話せないし…、なんて思っていたら、じゃああなたも歌いなさいと…」

しかし、歌手としてのスタートは拍手喝采とはいかなかったようだ。

「お客さまに言われたんですよ。『すごい下手ですね』って。すると姉が怒っちゃって、そこからは特訓ですよ。引きずり込まれちゃって」

クラブから始める

クラブのシンガーから始まり、憧れの歌手、井田リエのバックコーラスで歌ううち、レコード会社の目にとまり、デビューの話が舞い込んだ。しかし、最初は「興味がありません」と断ってしまったのだ。

「リエさんに相談したら、チャンスはそんなにないからやったほうがいいと言われました。今度はあなたがビッグになって、誰かが歌うチャンスを作っていけばいいって」

そうしてデビューを果たし、43年がたった。彼女は歩いてきた道は今、シティポップとして花開いている。若い世代がその後を走っている。だからこそ、過去のシンガーにはなりたくない。

「私ね、自分の歌が好きなのよ。今も若いころのサウンドでライブをするんだけど、キーは全然変わってないの。でも、年齢を重ねた分、昔のままっていうわけじゃない。60代の今がいいって言われるとやっぱりうれしいもの」

長年歌い続けてきたことで、シンガーとしての生き方が見えてきた。

「シンガーって、2パターンあると思うんです。リズムなど音を伝えるシンガーと、言葉を伝えるシンガー。で、わたしはどちらかというと、言葉を伝えるシンガーでいたい。若いときにはできなかったかもしれないけど、今なら自分にもそういうことができるのかなと思っています」

そこには唯一無二な存在でいたいという思いがひそんでいる。

「私はずっとオリジナルにこだわってきたんです。60代でも、70代になっても、これは〝ペニー〟だよねっていう何かを常に持っていたいよね。それが自分の存在意義なんだと思う」

だからこそ、学び続けている。今でも太極拳やフラメンコに夢中になっている。どれもこれも、自分の音楽に生かしたいという思いからだ。

「興味は尽きないし、何でも自分に取り入れたいって思う。たぶん、この世にバイバイっていうときまで、ずっと何かを学んでいるんじゃないかな。逆に言うと、学ばなくなったら、バイバイってことよね」

〝ペニー〟は今もなお進化し続けているのだ。

■当山ひとみ(とうやま・ひとみ) 歌手。沖縄県出身。「ペニー」の愛称で親しまれている。1981年、シングル「ドア越しのGOOD SONG」、アルバム「JUST CALL ME PENNY」でデビュー。「NEXT DOOR」「SEXY ROBOT」などのオリジナル・アルバムをリリース。ソロ活動以外にも、他アーティストへの英語詞の提供などを行っている。近年、シティポップブームから国内外で再評価が高まっており、2023年にはNight Tempoのアルバムに歌と作詞で参加。ライブも精力的に行っている。

(ペン・福田哲士/カメラ・鴨志田拓海)

この記事の関連ニュース