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実録・人間劇場 アジア回遊編~インド・ネパール(21)恐怖の暴走バスで山越え「事故を起こさない方が不思議」な狂った運転も…ネパール人はどこ吹く風

zakzak by夕刊フジ 2024年7月12日 15時30分

ヒマラヤ山脈の展望地であるネパール中部のポカラ。トレッキング好きの旅行者たちが多く訪れ、この町を拠点に各地の山々へ旅立っていく。ネパール人の多くが「ポカラは美しい」と口をそろえて言うので、カトマンズでダラダラとした日々を過ごしていた筆者も、ポカラに興味が湧いてきた。

飛行機を使えばカトマンズからポカラまで、なんとわずか25分。しかし、ポカラに行ったとてトレッキングなどするつもりがなかった私は「せめて移動中くらいは山を感じよう」との思いから、片道6時間かかる長距離バスに乗り込んだ。だが、チケットを取った旅行代理店の兄ちゃんの言葉がどうも引っかかる。

「時間通りに着くなんてことはまずないよ」

カトマンズを出たのは朝だった。どんなに遅くても夜には着くだろう。Agodaでその日の宿を予約し、座席でしばらく眠った。

けたたましいクラクションの音で目を覚ますと、バスは山岳地帯に突入していた。U字カーブが連続しているため、曲がり角の向こう側にいるかもしれない対向車両に存在を知らせているのだ。というのも、落ちたら崖の底へ真っ逆さまだというのに、カーブにはガードレールがひとつもないのである。

その上、バスの運転手は何かに取り憑かれたようにアクセルをベタ踏みし、次々と前方車両を追い抜いていく。そして、信じられないことに、すぐ真横が崖というカーブでもエンジンをブンブン鳴らして追い越しをするのだ。クラクションを鳴らしていれば安全…なわけがない。

ネパールで長距離バスの死亡事故が多発していることは事前に知っていた。2016年にはバスが崖を落下して60人以上が死亡。21年にもやはりバスが斜面を落下して21人以上が死亡。そんな事故が当たり前のように頻発している。とはいえ、「まさか自分が乗るバスは事故を起こさないだろう」と思っていた。しかし、この気が狂っているとしか言いようがない運転を目の前にして、私は心から思ったのだ。

「これでは事故を起こさない方が不思議だ」

どうせなら景色を楽しもうと最前列の席を取っていた私は、必死に運転手に言った。

「前の車を抜かしたところで到着時間はそんなに変わらない。もっと、ゆっくり走っていいんじゃないか?」

だが、運転手は何かに取り憑かれているので聞く耳を持たない。乗客のネパール人たちも頻発する死亡事故を知らないはずがないのに、なぜのうのうと座っていられるのだろうか。

日本人とネパール人には死生観に大きな違いがあるのか、それとも何も考えていないのか…。乗客の様子を見る限り、おそらく後者だと思う。

■國友公司(くにとも・こうじ) ルポライター。1992年生まれ。栃木県那須の温泉地で育つ。筑波大学芸術学群在学中からライターとして活動開始。近著「ルポ 歌舞伎町」(彩図社)がスマッシュヒット。

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