第2次ドナルド・トランプ政権が20日に発足するが、日本では否定的な意見が目につく。
だが、米国民はトランプ氏と共和党を選んだ。昨年11月5日の米大統領選で、共和党のトランプ候補が圧勝し、同時に実施された連邦議会選挙でも共和党が上・下両院の過半数を確保した。
なぜ、トランプ氏と共和党は勝ったのか。今回の選挙の最大の争点は、経済対策だった。
カマラ・ハリス氏率いる民主党は、低所得者層に対する補助金を増やす代わりに法人税増税(21%を28%に)や、金融所得課税強化(キャピタルゲイン税率20%を28%に)を掲げた。
一方、トランプ氏率いる共和党は、2017年の「減税・雇用法」に基づく通称「トランプ減税」(所得税を約3%引き下げ)の恒久化に加えて、法人税減税(21%を20%に、国内製造業は15%に)、チップ・残業代への課税廃止などの大型減税を掲げた。
トランプ陣営、正確に言うと保守派がここまで減税にこだわるのは、「増税は国民の財産権に対する侵害だ」と考えているからだ(リー・エドワーズ著、筆者監修『現代アメリカ保守主義運動小史』育鵬社、参照)。
ちなみに、17年のトランプ減税の時に基礎控除(米国では『標準控除』と呼ぶ)を、単身者が6350ドルから1万2000ドルへ、夫婦合算が1万2700ドルから2万4000ドルへ、ほぼ2倍に引き上げた。しかも、控除額は毎年インフレ率に応じて調整されていて、24年時点で単身者は1万4600ドル、夫婦合算は2万9200ドルだ。1ドル150円換算で、それぞれ219万円、438万円が控除、つまり非課税だ。
当然、巨額の財政赤字を生み出すことになるわけで、その対策としてトランプ陣営は、①減税と規制改革による経済成長に伴う税収増②気候変動対策への補助金削減③新たな関税の導入④徹底的な行財政改革の実施─などを挙げている。
行財政改革については過度な規制を撤廃し、無駄な政府歳出を削減すべく新組織「政府効率化省(DOGE)」を新設し、その組織を実業家のイーロン・マスク氏に担当させるとしている。
この公約には多くの批判が寄せられた。いわく、政府債務を急増させるだけでなく、多額の関税政策によって輸入物価が上昇し、家計や企業の実質的な所得が押し下げられ、景気にはマイナスだと。
そして、マスコミの猛反対にも関わらず、米国の有権者の圧倒的多数が「補助金と増税、政府の権限拡大」の民主党ではなく、「大型減税と規制改革による政府のコスト削減」の共和党を支持した。
トランプ氏の過激な発言ばかりが取り上げられ、あたかも米国はもうダメだと言わんばかりの議論が目につく。
だが、トランプ陣営勝利の背後には、自主自立、つまり政府からの補助金に頼らず、自分で稼いで自分たちでやっていこうとする多くの有権者たちがいることを見逃すべきではない。
■江崎道朗(えざき・みちお) 麗澤大学客員教授・情報史学研究家。1962年、東京都生まれ。国会議員政策スタッフなどを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究などに従事。「江崎道朗塾」を主宰。著書『日本は誰と戦ったのか』(KKベストセラーズ)で2018年、アパ日本再興大賞を受賞、23年にはフジサンケイグループの「正論大賞」を受賞した。著書・共著に『シギント―最強のインテリジェンス』(ワニブックス)、『日本がダメだと思っている人へ』(ビジネス社)など多数。